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今日はとても珍しい任務についた。
「義勇さん、どうですか」
「………」
「もー怒らないで下さいよ」
この任務のせいで義勇さんは朝から不機嫌である。
私は花魁の着物に身を包み、珍しくがっつり化粧を施していた。
今回の任務は吉原に出没する鬼で、ある日から女達が消えたり食い散らかされるようになったと報告では聞いた。
なので、吉原に潜入しその鬼を突き止め次第頸を刎ねよとのお達しを貰って今に至る。
前に助けた事のある吉原にある遊郭に事情を話し、協力を得てこうしているのだけど…
こう張り付くように義勇さんが居ては馴染めない。
「破廉恥だ」
「えぇ、破廉恥な事する場ですからそりゃ」
「…俺は納得していない」
顔の表情は変わらないのに雰囲気だけでムスッとできる義勇さんは表情筋どうなってるんだろう。
因みに持ち場は私が現場で義勇さんが町の中を担当する事になっていたんだけど、離れてもらえなきゃ私達が動いている事が鬼にバレてしまう。
「義勇さん、私は客を取る予定ありませんから」
「当たり前だ」
「それならどうして」
「…迷惑か」
「え?いや、迷惑ではないですけど鬼にバレては面倒です。そろそろ日も暮れますしね」
突然声量の下がった義勇さんに聞き漏らさないよう耳を近づけ、ぎりぎり聞き取れた言葉に本音を返す。
心配してくれるのは有り難い。
有り難いけど私達の目的はあくまで鬼殺なので、ここに義勇さんが留まっていては本末転倒なのだ。
「義勇さん、私の事信じてください。ちゃんと日輪刀も持っていますし何なら小刀も差し込んでありますから」
「…分かった」
本当に渋々と言った様子で折れてくれた義勇さんは時折振り返りながら店の外へ出て行った。
その様子を窓から見送りながら吉原の街並みを眺める。
所狭しと廓が立ち並び、女の子達に貢ぐ為に時折甘味処や小間物屋が入っている。
「すごい所だなぁ」
政府のお偉い様もお忍びで来ているようだし、色々な男性を虜にする女の子達には私に持っていない物が多い。
誘うような色気も無ければ、可愛げに心を擽ることも出来ない私は日輪刀を振るう事しか出来ない。
それはここに居る女の子達には出来ない事だから適材適所なのかもしれないけど。
「あ、義勇さん誘われてる」
少し行った所で呼び込みの方に話し掛けられ、客を装う為か見世物小屋を眺めている。
義勇さんも、あんな風に色艶やかな女性が好きなのかな。と言うか行ったことはあるのかな。
そんな考えに至った私は少しばかり気分が沈む。
勿論義勇さんも仕事中ではあるから結局首を振ってお店には入らないけど。
そんな時不意に私が貰った部屋が勢い良く開かれた。
義勇さんはあそこに居るし、もしかして鬼だろうかと振り返ると顔を赤らめた男の人が1人酒の臭いを漂わせて部屋を見回している。
「あ、あの…お部屋間違えてませんか」
「んー?あれ何だ姉ちゃん可愛いな」
「いえ、私は…」
「よぉっし、決めた!今日の相手はお前にしよう」
「え!?いや、困ります!」
部屋にズカズカと入って来た男の人が私に顔を近付ける。
酒臭いわ、体を這う手が気持ち悪いわで思わず顔を顰めた。
最悪手刀を入れて気絶させてしまおうかと考えた時視界に艶やかな色の着物を纏った女性が現れて、私に絡むお客さんの腕を力強く引っ張った。
「次郎坊の兄さん、あんた浮気するつもりかい?」
「あれ、須寿音じゃねぇか!」
「全く。客もまだ取った事ない女に欲情しちまうなんて、困った男だね」
「そ、そんな事ねぇよ!俺はお前を探してたんだ!」
「そうかい?なら部屋に戻ろうか」
「おう!」
須寿音と呼ばれたお姉さんは私に絡んでいた腕を豊かな胸に引き寄せて、咎めるようにその人を睨んだ。
そんな仕草も色っぽいなんて、やはりここで働く女性は凄い。
男の人は須寿音さんがお目当てだったらしく、私を押し退けて部屋を出て行った。
出て行く寸前に須寿音さんが私に向かって片目を閉じて小さく手を振る。
もしかして助けてくれたんだろうか。
だとしたら後でお礼を言わなきゃ。そう思いながら開けっ放しにされた襖を締めた。
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