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「義勇さん、好きなんです」

「月陽…」

「ねぇ、お願い。抱いてください」


寝間着の合わせ目を緩めて頬を赤らめた月陽は冨岡に跨り色っぽく誘ってくる。


「俺も好きだ」

「…嬉しいです、義勇さん」

「ずっと、お前とこうして…」


触れ合いたかった、そう言って跨った月陽を布団へ優しく押し倒し艶やかに光る唇を奪った。








「っ!!?」


今日は月陽の居ない夜だった。
自分の布団で寝ていた冨岡は叫び声にならない叫び声を上げがばりと身体を起こす。
辺りを見回しても見慣れた自分の部屋があるだけで、何もない。

冨岡は深くため息をつき、頭を抱える。


「俺は…何を見ているんだ」


月陽を異性として好きだと認めた日から、自分がおかしいのはよくよく理解していた。
それが恋というものだと本にも書いてあった。
だから当たり前の事なんだと受け止めてはいたものの、今日見た夢は何とも浅ましい自分の欲望を現したかのようでここに月陽が居なくて良かったと心からそう思った。

いつもは自分を律し制御している冨岡でも、月陽の居ない今日くらいは己を慰めてやろうかと考えるが先程見た夢のお陰で罪悪感に容赦無く襲われる。

今このまま慰めるとどう考えてもさっき夢に出てきた妖艶な月陽の姿しか浮かばない。
布団の下では元気な自身が早くしてくれと急かすよう痛い程に主張していた。

男である以上、女性とそういう行為はした事がないが慰めるくらいは経験している。
しかし今まではそれもただの作業であった冨岡にとって、好きな女が出来てしまった以上そうも行かなくなったのだ。

幾ら実行していないとは言え、終わったあとの罪悪感は計り知れないものであると冨岡は考える。
好いているからと簡単にお供にできないのが彼だった。

かと言って遊廓は行きたいとは思わない。


「……月陽」


ここまで考えて、ふとこの家に自分一人だと言うことを痛感し思わず月陽の名前を呼ぶ。
今まで一人で住んでいたこの家は、月陽が来てからというもの遠出でない限り基本的に帰ってくるのが習慣になった。
それまでは人を雇い自分が帰ってくる前に掃除をしてもらっているだけの家だった。

綺麗にされてはいるが、台所だって一人では使う事もなく自分の部屋のみの使用で必要か不必要かで言えば無くても支障のない空間という認識でいた。


「随分と、物が多くなった」


いつの間にか自身のモノも収まり、ただ寂しさだけが積もる空間に視線をやるとこの前月陽が遊びついでに書いてくれた自分の名前の紙が視界に入った。

完全に目の覚めてしまった冨岡は手を伸ばしその紙を手に取る。
嬉しそうに得意気に見せてくれた月陽の顔を思い出す。

昼過ぎに甲同士の合同任務があると言って出立して行った月陽は、帰れないかもしれないと言っていた。
任務である以上冨岡が付いていくことはしないし、出来ない事は理解している。


「錆兎や、姉さんの時とは違う」


心に穴が空いたような気分は言葉で言い表せば同じだが感覚は違かった。
勿論故人ではないのだから当たり前ではあるが、それでも月陽の姿が見えない所に居るのは心配にもなるし寂しいとも思う。

ふと少しだけ開けていた襖から月の光が入り込み空を見上げた。



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