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※捏造多めに含まれています


偶然だった。
その日私は柱同士の合同任務があると言った冨岡さんと別で動いていたら、暑い中外を歩くあまね様を見かけた。


「あ、あまね様!?」

「月陽殿」

「どちらへ?宜しければ私もお供致します」


産屋敷邸から出ているのは初めて見たので何かあったのかと無礼承知で駆け寄り膝を付く。
鬼殺の為に以前男の子と出会った町へ来ていたのだけど、任務も終わったし手が空いていた私は護衛を名乗り出た。

あまね様に何かあるなんて許されることでは無い。
鬼殺隊にとってお館様が父ならあまね様は母なのだ。


「ありがとうございます。ではこちらへ」

「はい」


背筋を伸ばし先頭を歩くあまね様の美しい後ろ姿を見ながら周囲に気を配る。
昼間であるし鬼の襲来はないだろうが、物取りなどそういう物騒な輩は昼夜問わず居るものだ。

少し歩いていくと、小さな家が見えた。


「ここは?」

「始まりの呼吸の子孫とされる子供達が住んでいます。何度か勧誘に来ているのですがなかなか」

「始まりの、呼吸」


聞いたことがある。
そう思った瞬間強い刺激臭が鼻をついた。

何かあるとあまね様の前に庇うように立ち、刀を構える。
人の腐った臭いだ。鬼にやられて中途半端に放置された死体を見た時と同じ臭いがする。

柄に手を置き、家の入り口を開け素早く家へ入るとそこはさっきよりも臭いが強く虫の音がした。


「あまね様。お下がりください」

「分かりました」

「…子どもが2人。一人は生きています!」


蛆の湧いた死体を眺めるようにして見つめる男の子に既視感がある。
急いで駆け寄り顔を見ると虚ろな瞳が私を見た。


「…君は」


あの時私の前で盛大に転んだ男の子だった。
虫は苦手だけど今はなりふり構っていられない。
男の子に集る蛆虫を払い落とし、無言で抵抗するその子を抱き上げ外に連れ出す。

男の子の惨状を見たあまね様が口を手で覆っているのを視野に入れながら、服の中に入っている蛆を更に払い落とした。


「君、私の事覚えてる?」

「…ぁ」

「お水飲もう。大丈夫、怖いなら私が先に飲む」


何も飲み食いしていなかったのか、掠れた声で私に反応してくれる男の子の背を擦り持っていた水筒を取り出す。
持ち歩いていたものだからぬるくなってしまっているが、この子には丁度いいだろう。

冷たくては腹を下してしまう。


「いい子だね」


私に背中を預けて僅かばかり乾燥した唇に少しずつ水分を流し込む。
最初は咳き込んでいたけど、徐々に飲み込んでいってくれる姿に胸を撫で下ろした。

この子には、きちんと生きたい意思がある。


「ぉ、ね…あ、…め」

「うん。飴のお姉さんだよ。憶えててくれたんだね、ありがとう。もう大丈夫だよ」

「…に、いさん」


男の子そう呟いて気を失った。
そっと血を拭いてあげると、どこもかしこもボロボロな体に心が痛む。
きっとこの子やこの子のお兄さんは鬼に襲われたんだろう。
かー君を呼び、隠を集めるよう伝え男の子を背負った。

日が暮れる前にあまね様もお館様の元へ帰さなくてはならない。
この子のお兄さんには悪いけど、生きている人間を優先させなくちゃいけないから。


「あまね様、帰りましょう」

「…はい」

「この子は私が背負います。臭いが気になるようでしたらどうぞ風上へ」

「いいえ、大丈夫です」


気を失った男の子にあまね様がそっと触れる。
お顔もそうだけど、なんて心の清らかな方なんだろうか。
あまね様がお館様の奥様で良かった。

私達は出来る限り早く、お館様の待つ屋敷へ帰った。



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