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その日私たちは鬼殺の帰りで、小さな町に寄っていた。
私達と言っても今は冨岡さんと別行動なので、私一人で町をぶらついている。

春の日差しを浴びながらただ散歩というのもなかなかいいものだと思いながら歩いていると、小さな子が男の子が目の前で盛大に転んだ。
それはもう本当に盛大に。


「だ、大丈夫?」

「…うん」

「いや、鼻血出てるよ。お姉さんに見せてごらん」


思わず声を掛け、涙目で頷く男の子の鼻を持っていた手拭いで拭いてあげる。
膝も擦りむいてる。あれだけ盛大に転べば当たり前かと、持っていた傷薬を優しく塗ってあげた。

手当している間もボーッとした表情で私を見る男の子に、笑顔を返す。
不審者だと思われてるんだろうか。


「よし、これで大丈夫。お母さんやお父さんは?」

「居ないよ」

「え、あ…じゃあ家まで送ろうか?」

「ううん、大丈夫。ありがとうお姉さん」


失言だったかと思いながら、せめてお詫びに送ろうかと提案すると小さく笑ってくれた男の子は首を振った。
しっかりした子のようだし、私は男の子の頭を撫でてわかったと返事をする。
眉を下げて私の手を受け入れる男の子はとっても可愛い。


「おい無一郎!何やってんだよ!」

「あ、ごめん」

「帰るぞ!」


遠くから男の子そっくりの子が大きい声で呼んでいるのが聞こえて二人で振り返る。
双子なのかな。
そう思っているとゆっくりと立ち上がった男の子はぺこりと頭を下げた。


「お姉さんありがとうございます」

「どういたしまして!これ、良かったら持っていって」

「…あめ」

「うん。お姉さん沢山買ったの。だからお裾分け!兄弟で食べてね」

「僕、飴大好き。ありがとう」


飴を何個か手渡すと嬉しそうに笑った男の子はそれじゃあと手を振って兄弟の元へ走って行った。
その様子を見送って、そろそろ冨岡さんと合流する時間も近づいてきたので待ち合わせ場所へ足を向ける。

とても可愛らしい男の子だったな。
弟とか居たらあんな感じなんだろうか。


「私は兄弟とか居ないからちょっと羨ましいなー」

「何がだ?」

「わっ!ビックリした…」


待ち合わせ場所でさっきの子達を思い出してにこにこしていると、いつの間にか目の前にいた冨岡さんに顔をのぞき込まれた。


「いえ、さっき目の前で盛大に転んだ男の子が居まして。手当してあげて、飴をあげたら可愛く笑ってお礼を言われたから可愛かったなって」

「そうか」

「義勇さんも小さい頃とかあんな風に笑ってたんでしょうね。見たかったなー!!」

「俺だって笑う時くらいある」

「知ってますよ。小さい頃の義勇さんの笑顔も可愛かったんだろうなって話です。今みたいに目を細めて笑う義勇さんもとっても素敵ですよ」

「……」


そう言えば急に黙り込んでしまう冨岡さんに首を傾げた。
何かだめな事でも言ってしまっただろうかと思い、とりあえず謝っておこうかと口を開いた時目の前に出された冨岡さんの手に邪魔される。
その手には小包に包まれた四角状のものが乗っていた。


「これ、何ですか?」

「砂糖菓子だ」

「くれるんですか?」


私の問に頷いてくれた冨岡さんに、思わず笑顔になってしまう。
買ったのか貰ったのか分からないけど、砂糖菓子を包む和紙がくしゃくしゃになっていたからずっと握り締めていたんだろう。
何だかそんな冨岡さんが可愛くて、お礼を言いながらお菓子を頂いて包を開く。


「可愛い!」


桃色と緑の砂糖菓子が重ねて一つずつ包まれていた。
小さいものとは何と可愛いんだろう。
一人ではしゃぐ私を見ている冨岡さんに、桃色のひと粒を口の前まで持っていった。


「はい、あーん」

「…」

「あーーーん!!」


有無を言わせるつもりは無かったので強引に口を開かせると中へ放り込んであげた。
無言で咀嚼する冨岡さんに私も残りのひと粒を口に入れる。
うん、美味しい。

顔を片手で覆う冨岡さんに気付くことなく私は口の中の小さな甘味を楽しんだ。



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