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いつも通り、義勇さんと鍛錬をしていた時の事。
かー君ではない可愛らしい便箋を咥えた鎹烏が私達の元へ訪れた。


「誰の烏でしょう」


手を伸ばし止まる場所を差し出してあげるとその烏は私の腕へ舞い降りた。
その子は私に便箋を渡し、近くの木へ移動してしまう。

返信を待つということなのか、とりあえずこの可愛らしい便箋を見ると甘露寺蜜璃と綺麗な字で書かれていた。


「甘露寺様だ」

「そうか」


差出人を確認した冨岡さんは興味を失くしたように、縁側へ腰掛ける。
休憩ということでいいのだろうか。
私は井戸で手を洗いお茶の準備をして冨岡さんが座る縁側へ戻る。


「義勇さん、お茶です」

「あぁ」


短く返事をしてお茶を受け取った冨岡さんの横へ腰を下ろし、懐にしまった便箋を開く。
女性隊士の方から手紙を頂くというのは初めてで、少しばかり心が踊った。

中を読んでみると甘露寺様の教養が感じられる達筆と文章で言葉が綴られている。
要約すると、元気にしていますか?近々柱合会議で話していた甘味処へ行きませんか、という内容の手紙だった。


「義勇さん、義勇さん!甘露寺様からお誘いの手紙です!」

「…甘露寺と二人か?」

「あ、いや。誰が行くとかの話は何も」

「なら聞けばいい」


正座をしながらお茶を啜る冨岡さんに報告すれば意図の読めない顔をしている。
大体読めない顔をしてはいるけど、今日はもっと読めない。
何を考えてる顔なの。

遠回しに返事を書けばいいと言ってくれたと受け取った私はいそいそと筆と紙の準備をする。


「えー…お久しぶりです、私は元気です。甘露寺様も元気にしていらっしゃいますか…」

「黙って書けないのか」

「い、いや…私事での手紙は慣れてなくて。しかも甘露寺様凄い達筆だし、何だか照れてしまって」


てへへ、と頭を掻けば冨岡さんが机に向かう私の横へ腰を下ろす。
どうやら私の文字に興味を持ったらしい。

甘露寺様からの手紙はそっと丁寧に畳まれてそばに置かれた。


「別に汚い訳じゃない」

「そりゃ練習はしましたからね」

「甘露寺はそんな事を気にするような奴じゃない」


それは暗に私を励ましてくれていると受け取っていいのだろうか。
確かに冨岡さんの言うとおり甘露寺様は字が汚いと罵るような方では無いけども。

そこでふと伊黒様を思い出した。


「伊黒様って甘露寺様と文通してるって言ってたけど字は上手なんですかね。流れるような字書きそう」

「何故そこで伊黒の話が出る」

「え、逆に怒る所ですか?」


ちらりと私を見た冨岡さんの視線がいつもより鋭かったので引き気味にそう問い掛ければ顔を背けられてしまった。
これ私が悪いのだろうか。


「義勇さーん」


機嫌を取るために頬を人差し指で突いてみる。
思いの外柔らかい感触に驚きながらもう一度名前を呼ぶ。


「義勇さん、何で怒ってるんですかー?」

「怒っていない」

「そうですか、それなら良かったです!」


頬を突いていた私の手を優しく振りほどいてまた顔を背けた冨岡さんが子どものようで可愛く見える。
何で拗ねているか私には分からないけど側に座っていてくれると言う事はそこまでじゃないと自己解決してもう一度紙に視線を戻した。


「うーん、とりあえず甘露寺様の大丈夫な日と希望の場所を聞いてみますか」

「誰が来るかもだ」

「はいはい、分かりましたよ」


最近の冨岡さんはまるで保護者のようだ。
出来る限りの丁寧な文字で甘露寺様へ返事を書きながら、今日の夕飯はどうしようかと考えた。



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