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ある日の事、久し振りに冨岡さんとは別の任務に救援として呼び出された。
甲が私以外に3人居れば大丈夫だと伝令が来たので、見回りをしていた冨岡さんに後を任せて救援を出した隊士達の元へ走る。


「月陽さん!」

「お疲れ様です。状況を教えてくれますか?」

「はい。負傷者10人、行方不明者が3人です」

「鬼は?」

「それが負傷者によると変な血鬼術を使うようで、色とりどりの髪で攻撃をしてくるようなのですがそれに触れた者は様々な毒に侵されていまして…」

「様々?」


冨岡さんまで来る必要はないと言われたらたいした鬼ではないのかと思ったけど、安全地帯で体を横たえる隊士たちの様子を見るとそれなりに実力がありそうだ。
一人は嘔吐、一人は幻覚と本当に様々で纏まりがない。

急ぎ胡蝶様に伝令を出し、手が空いてる者は負傷者の介護に努めろと指示を出す。
後は隠が到着し次第運んでもらえば良い。


「私以外の救援者は?」

「もうすぐ到着との事です」

「そうですか。では私は一人で先に鬼を探します」


自分の日輪刀に手を置き、目の前の雑木林へ目線をやる。
それなりに広い土地ではあるけど、呼吸を使えばある程度の空間は認識出来る。

私の指示に従った隊士たちを残し、泥濘のある雑木林へ踏み込みある程度奥へ進んだ所で日輪刀を構えて睦月を使った。


「…これは、どういう事なの?」


睦月の空間把握術は白黒の空間だが隊士の性別や鬼の容姿は分かる。
私の脳内で見えた光景は恐らく行方不明と言われた三人がその鬼を守るようにして立っている光景だった。

操られているのかもしれない。
そう思って、鬼の場所へ全力疾走で向かう。
向こうに動く気配はない。ならばその内に追い付き操られている隊士を取り返さなければならない。
用済みとなれば鬼は容赦なく隊士達を殺してしまうから。

少しばかり開けた場所へ足を踏み出すと、地面が動く気配に刀を地に刺し着地地点を変える。
少し遠目に足をつくと動いた地面から硬い何かが突き出た。

鬼は髪を媒体に血気術を使用すると聞いていたし、アレの正体は鬼の髪と判断する。
しかしこの泥濘は些か面倒だ。足元が泥濘んで上手く跳躍できない。


「あぁ、素敵な女性(ひと)だ」

「…お前が鬼か」

「そうだよ。初めまして美しい女性!私の名前は逗子丸。以後お見知りおきを」


鬼にしては人間寄りの外見をしているなと思った。緑や紫の髪を除けば見目のいい男の容姿をしている。
そしてそれを守るように立っている隊士は全て女隊士の子たち。
自我の確認を取るため私はその子達へ声を掛けた。


「貴女達、意識はありますか」

「ありますよ、月陽さん」

「なっ…」


平然とそう言った女隊士に私は驚いてしまった。
目を見れば操られているか操られていないか分かる。分かるからこそ驚いた。

彼女達は自分の意志であの鬼の側に立っている。


「私達は私達の意思で逗子丸殿の側におります」

「何を言っているのか分かっているの?」

「えぇ」

「ふふふ、いい子達だろう?この子達は君に劣りはすれど可愛らしいから愛してあげようと思ったんだ」


刀は構えたまま少し混乱する頭を整理しようと唇を噛んだ。
愛しげに隊士達を愛でる鬼に殺意は感じない。
何がしたいのか分からない鬼に、何故鬼の傍らに行ってしまったか分からない隊士達。


「…貴女達の処罰は後で考えます。まずはお前を討つ!」

「あぁ、美しい女性の怒った顔の何と素敵な事か。是非とも私の子を孕んで貰いたい!!」

「月の呼吸…漆ノ型、文月!」


高く飛び上がった私は鬼の頭上に日輪刀を振り翳し、頸を狙う。
光悦の表情を浮かべて私に手を伸ばしている鬼へ狙いを定めた瞬間飛び出してきた隊士に目を剥き、刀の軌道をずらす。

体勢を崩しながらも着地する私の顔に鬼の血が降り掛かった。
その鬼は守ろうとした隊士を庇い腕を落としていた。



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