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「冨岡さんは、言葉が少ないですがとてもいい人です。指導者としてきっと素晴らしいと思います。でも、あの人にその自信がない」

「そうよねそうよね!冨岡さん、とっても強いもの!」

「だから、私が強くなって証明したいんです。冨岡さんは自信を持っていいんだと」

「女に自信をつけてもらうなど、女々しい男だ。月陽、冨岡の側に居るのを辞めるなら今だぞ」

「いいえ、辞めません。私は冨岡さんについていくと決めたんです。あの人を肯定するって約束したんです」


俯き加減にこの場を去ろうとしていた冨岡さんの背中に向けて大きく言葉を掛ける。
私の行動に振り向いた冨岡さんの目が小さく見開いているのを見て、笑い掛けた。


「何より冨岡さんを信じています」


少し遠い位置に居る冨岡さんに向けてはっきりと告げる。
隣で甘露寺様が愛ね!と興奮していたのでちょっと訂正はしたけど、誰にどんな事を言われたって私の意思は変わらないし、冨岡さんも裏切るような人じゃないのは分かってるから。

少しでもこの場にいる不死川様たちに届けばいいと思う。


「全く、俺はもう知らんぞ。お前が泣きべそをかき助けてと縋りついても知らん」

「縋り付きません!でもちょっと愚痴と食事くらいは付き合ってください!」

「贅沢なやつだな…」

「それは素敵ですね。是非私もご一緒させてください」

「私は愚痴なんて無いけどご一緒したいわ!冨岡さんとのお話しもっと聞きたいもの」
 

なんて優しい人達なんだろう。
きっと遠くでこの会話を聞いてる不死川様も冨岡さんの実力を認めているからこそあぁいった発言もしたんだろうなと思うと少しだけ心が軽くなる。

冨岡さん、もっと自信を持って。
私で納得できないというのなら、きっといつか貴方を説得してくれる人が見つかるから。


「というか伊黒さんはいつから月陽ちゃんを名前で呼ぶようになったんです?」

「は?」

「あ、それは私も気になってたわ!」

「どういう事だ伊黒」

「冨岡貴様遠くにいたというのに突然近寄るな気色の悪い。甘露寺がこいつの事を名前で呼んでいたから俺も呼んでしまっただけで他意はない。柱合会議では喋らんくせにこいつの事だけ出しゃばるとはどういう了見だ」


足音もなく私達の輪に入ってきた冨岡さんに私一人がぎょっとしてしまい、真顔で詰め寄る彼を今まで黙っていた宇髄様が諌める。


「まぁまぁ冨岡!お前が実は男らしいって所は後で派手に見届けてやるから今日はこいつ連れて帰れ」

「なんの事だ」

「だが嫉妬は地味だ、良くない。お前を信じてるこいつを信じてこそだろ?」

「……」


宇髄様は豪快に笑いながら冨岡さんにこそこそと耳打ちしてるから、私には聞こえないのだけど胡蝶様はいい事を聞いたと真意のわからない笑みを浮かべてるし甘露寺様は薔薇色の頬を更に染めて聞き耳を立てている。

なんの事やら分からない私は隣に居る煉獄様を見ると大きな瞳のまま首を傾げられたので、同じ境遇の人が居たからそれでいいやと楽しそうな光景を見つめた。
伊黒様も面倒くさくなってしまったのか冨岡さん側ではなく私側に立って甘露寺様を見つめてる。
可憐だとか思ってるんだろうなぁ。


「帰る」

「あ、はい!それでは皆様、私達はお先に失礼します」

「おう、またな!簪派手に似合ってるぞー」

「あっ!宇髄様!その件に関して後でお話ありますからね!」

「またね、冨岡さんに月陽ちゃん!」

「男は狼ですよ、月陽さん。お気を付けて」


突然帰えると言った冨岡さんの後ろを急いで追いかける前に残っていた柱の方々に一礼して走り出す。
どうしたんだろうか、冨岡さんは。
早歩きでお館様のお屋敷を出た冨岡さんの隣に追いついて顔を覗き込む。

特に話すつもりはないのか、真っ直ぐ前だけを見て歩いている冨岡さんにいつも通り私が一方的に話し掛けた。


「冨岡さん、皆さん素敵な方々ですね」

「そうか」

「不死川様や、悲鳴嶼様とは余りお話は出来ませんでしたが冨岡さんの事認めてるんじゃないかなって思うんです」


その言葉に足を止めて私を見つめる冨岡さんに微笑んで羽織の端を掴んだ。
柱稽古をするな、ではなくあの人達は柱稽古をしろと言った。実力の無い人にそんな事を言うような人達ではないと思うから、絶対認めてるに違いない。
冨岡さんが自信がないから、その言葉を受け止められないんだと思う。


「お前は、人に好かれるな」

「そうですか?」


こくりと首を縦に振って肯定される。
いやいや、結構震えましたけどね。やっぱり柱の面々は揃うと迫力が違う。


「それと」

「はい」

「いい自己紹介だった」

「…馬鹿にしてますよね?それ」


掴んだままの羽織をくい、と引っ張ってみれば目を僅かばかり細めていて心臓が鷲掴みにされた感覚に襲われる。
この感覚は分からないけど、何となく恥ずかしくなって帰り道珍しく私は無言だった。


Next.

そして補足。無一郎くんですが、まだ柱になっていない前提でお話を書いています。
もう少ししたら出す予定!




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