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柱合会議まではもう少し時間もあったし、持ってきていた飴を冨岡さんの口に入れてあげると無言で舐めはじめたのでホッと胸を撫で下ろした。
甘露寺様達は大丈夫だろうか。
伊黒様は置いとき甘露寺様はどう考えてもとばっちりだ。
「冨岡さん」
そう呼び掛ければ視線だけで答えてくれたのでそのまま言葉を続ける。
「私は一度甘露寺様にお詫びしてきます。ここで待っててくれますか?」
「…わかった」
「絶対動いちゃ駄目ですからね!」
まるで幼い子どもを叱っているようだと母親になった事もない私が思っていると、意外と冨岡さんはしっかり頷いてくれた。
分かってもらえた所で飴玉を口の中で転がす彼を置いて再び甘露寺様と伊黒様の元へ向かう。
「伊黒様、甘露寺様」
「あら月陽ちゃん!冨岡さんは大丈夫そう?」
「なぜ甘露寺があいつの心配をするんだ。そんな必要はない。俺の手を叩き落としただけなのだからな」
「あぁーもう、伊黒様怒らないでくださいよ」
甘露寺様に心配される冨岡さんが気に食わないのか鼻を鳴らして顔を背ける伊黒様の袖を掴んで叩き落とされた手を撫でた。
その様子を見ていた甘露寺様が頬を赤くしてまぁ!と言っていたけどこれは単純に謝罪の意味を込めて撫でているだけなのでキュンとするのはやめて頂きたい。
「伊黒様、心配してくださってたんですね。意図を汲み取れず申し訳ありませんでした」
「…心配などしていない。単純に気になったからお前の首を確認してやっただけだ。それなのにあいつは蛆虫の様に湧いて更には俺の手を叩き落とすなど」
「まぁ、月陽ちゃん首に怪我でもしたの?大丈夫なのかしら」
「…伊黒様」
「何でもないぞ甘露寺。ただのこいつの不始末だ。首をやっては刀も存分に振るえぬから経過を見てやっただけの事。何も心配する必要はない」
「そ、そうだったのね!それなら良かったわ」
純粋に心配をしだした甘露寺様の様子に私が伊黒様を責めるような目で見つめると、間髪入れずに嘘の補足をし始めた。
最初から話を逸らすならあんな事しなければ良かったのに。
純な甘露寺様に今回の話題は悪影響だ。いや、別にアレ以外は何もなかったので完全な悪影響とは言い難いけども。
「それにしても月陽ちゃんてとても可愛らしい子だったのね!女の子なのはしのぶちゃんから聞いていたけど、これは冨岡さんも手放したくなくなっちゃうわ!素敵!」
「手放したくなくなる?い、いえ。私がお願いして冨岡さんに居てもらってるだけですよ!」
「そうだったの!是非月陽ちゃんとは今度お茶でもしたいわ!ご都合つくかしら?」
「え、それは…」
楽しそうに両手を合わせて私に詰め寄る甘露寺様に思わず確認するよう伊黒様を見ると何とも言えない顔で私達を見ている。
え、怖っ。甘露寺様可愛いとか思ってるのかな。
というか私如きが甘露寺様とご一緒してもいいのだろうかと確認が取りたいのだけど。
「是非ご一緒したいのですが、伊黒様は如何ですか?」
「都合が付けばな」
「ふふふ、伊黒さんは美味しい甘味屋さんたくさん知ってるのよ」
「それは助かりますね。お話に甘味は必需品ですから」
「そうよね!そうよね!じゃあ今度お誘いのお手紙を送るわね!」
「えぇ、楽しみにしています」
感情に合わせてひょこひょこ跳ねる甘露寺様のたわわな乳房につい思わず視線が行ってしまう為、笑って誤魔化すと冨岡さんを待たせているからと言ってとりあえずその場を後にした。
柱合会議前になんて濃い絡みをしてしまったのだろう。とても疲れた。
しかし甘露寺様とお茶が出来るのはとても嬉しい。可愛らしい彼女とお話できる機会なんて早々無い機会だ。
兎に角これから柱合会議も始まるだろうし、待っている冨岡さんを迎えに行くと座ったままの格好で私を待っていてくれた。
「お待たせしました。そろそろ時間ですしお館様のお屋敷に入りましょう」
飴はもう食べ終わったのだろうか、動いていない口を確認して手を差し伸べる。
そしてその手を冨岡さんが無言で数秒間見つめる。
いや、何ですかね。
「冨岡さん?」
どうしたのだろうと名前を呼んでみると私の瞳を見つめ始めた冨岡さんは手も取らずに立ち上がった。
何なんだ、今日の冨岡さん特に分からない。頭を抱えそうになりながらてちてちと先を歩いて行ってしまう冨岡さんの背中を追った。
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