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夜中、月陽を連れて帰った冨岡は二人で一つの部屋に集まり小さな声で先程の鬼についての報告を受けていた。


「親にとって子はどんな形であれ子なのでしょうね」

「…そうだな」


ふと淋しげな色を瞳に宿した月陽に、冨岡は自分もついていけばよかったと後悔に襲われた。

実力、信頼共に月陽が柱として立つことは産屋敷に報告した通り申し分の無い人間だと冨岡は思っている。
しかし彼女は心が優しすぎるとも思っていた。

鬼を討つ以上、自分の精神に鞭打ちやらねばならぬ事が柱になってからは特に多い。
冨岡も何度鬼を討ちその家族に糾弾されたか分からない程だ。
それを彼女が耐えられるのだろうか。もし彼女や産屋敷が許してくれると言うのであれば、継子としてではなく自分の元に置いてもいいと思える程には月陽を大切にしている自分がいた。

先程の帰り道の事も恐らく彼女にはこれっぽっちも伝わっていない様な気がしている。


「それにしても冨岡さん。明日は出立ですが蒼乃さんはどうするんですか?」

「?」

「いや、流石に好意には気づいてますよね?」

「…俺は付き合うつもりはない」

「あーうん、その…はい」

「だからどうするつもりもない」


そう言い切れば歯切れの悪い返事を返す月陽に更に冨岡は首を傾げる。
何か変な事でも言っただろうかとも思うがどちらかと言うと自分は変なことを言う前に言葉数が少ないことはある程度自覚はしているので、言ってはないのだろうと自己解決する事にした。

そして月陽は自分の部屋に戻り、そろそろ自分も寝るかと明かりを消して布団に潜ったとき部屋のまえに人の気配を感じて目を開ける。


「…なんだ」

「冨岡様、夜分に申し訳ありません。お話があるのですが」

「俺はもう寝る。そういうのは迷惑だ」


ここまで拒絶すれば諦めるだろうと背を向けようとした時、襖が開かれる音がして自分の身体に何かがぶつかった衝撃が来る。
不本意ながらも受け止めてしまった冨岡は深くため息をついた。


「冨岡様、叶わなくても良いのです。せめて抱いてください」

「部屋へ帰れ」

「お願いします」

「諦めてくれないか。世話になってる以上傷つける真似はしたくない」


冨岡の背に腕を回した蒼乃は頬を涙で濡らしている。
正直に言って冨岡にはここまで好かれる意味が分からなかった。
自分は蒼乃に優しい言葉も行動もしたつもりはなく、世話になっている分の礼しかしていない。


「冨岡様は好きな人がいらっしゃるのですか?居ないのであれば…」

「大切に想ってる奴は居る」

「…それは、お連れになってる鬼狩り様ですか」

「あいつは鬼狩り様という名前じゃない」


蒼乃が袖を掴む力を強くする。
離したくはないと言っているような行動だったが蒼乃はまず冨岡の恋仲ではない。それを否定するかのように掴んだ手をゆっくり離した。


「永恋月陽だ」

「…どうして永恋様なのですか」

「お前に関係はない」


歯を食いしばり目の前で正座する蒼乃は一般的に言えば可愛らしいのだろう。
だが冨岡は蒼乃を目の前にしても考えてしまうのは先程まで一緒にいた月陽だった。


「…俺は月陽が好きなのか」

「私に聞かないで下さい!」

「すまん」

「貴方はいつも永恋様の事を考えていらっしゃるではないですか」


ついに大粒の涙を落とした蒼乃に冨岡は一人そうかと納得する。
伊黒と共に居たと聞いた時の焦燥感や、触れたいと思ってしまうのは自分が月陽を想う気持ちから来ているのかと気付けばもやもやとしていたものがしっかりと形を表してくれたように感じた。







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