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呼吸の使い方が分かると楽しくなった。
父も母も前の様に優しい顔を浮かべてくれた。

ただそれだけで、私には頑張ったかいがあったと思えた。

月の呼吸は見本も無ければ取得方法もよく分かっていない。
だから私は山を走り、夜には屋根から月を眺めた。


父から言い聞かせられた。
月陽はいつか自分の身や人を守れる鬼狩りになれる。その為にはたくさんの鍛錬が必要だと。

だから私はいつも同じ答えを返した。



「わたしは、父さんと母さんを守りたい」



そう言うと父さんは悲しそうに、嬉しそうに笑った。

私が修行を開始してから2年程の月日が経った。
当時七歳。呼吸の鍛錬以外に母から読み書きを教えて貰っていた。

簡単な書物であればある程度は読めたし、字も書けた。
母のように美しい字は書けなかったけど、自分の名前や両親の名前を紙に書いた時はとても喜んでくれた。


鍛錬を終えて家に入ろうと思ったある日、料理をする母とそれを手伝う父の声が聞こえた。
耳をすましてみれば、もうすぐ母が嫁に来た日だと、父が幸せそうに母へと話し掛けている。

二人にとっての幸せを結んだ日。
そんな両親から産まれ育てられた私にとっても、大切な日。
私は刀を腰に差し込み、手伝いをして貯めたお金が入っている巾着袋を持って隣町へ走った。


馬鹿な私は、何も考えていなかったんだ。
時刻は夕刻。行って帰って来る頃には夜になる事も、夜は家から出るなと口酸っぱく父から言われていた事も、頭の中からずり落ちていた。


もし、私が家に居たのなら
二人を守れたかもしれないのに。


とんだ大馬鹿者だ、私は。





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