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話を聞けばこの男性はここから少し離れた所に住んでいて、昨日の夜中居酒屋から家への帰り道に鬼に襲われたと言う。
そして命からがら先程まで隠れて過ごしていたと言うわけらしい。


「その鬼はどちらへ行きましたか」

「俺も必死に隠れてたからどっちへ行ったかまでは…」

「そうですか。では覚えている範囲でいいので鬼について教えてもらってもよろしいでしょうか」


任務対象の鬼であってもなくても私はその鬼を斬らなくてはいけない。
些か胡散臭い男性ではあるが話を聞いて、今夜は街の方へ泊まるよう言い聞かせた。金がないと言うので宿に泊まれるくらいの最低限は渡したがあれは酒代に消えそうだなと思う。

しかしお金はいいのだ、命あってこそ意味がある。
礼を言いながら頭を下げ街へ向かっていく男性を見送りそろそろ朝餉の時間になるので私も藤の家へ爪先を向けた。
一応静かに玄関を開けたら丁度私と冨岡さんの分を運ぼうとしている奥さんと旦那さんに会ったので私も朝のご挨拶をして手伝うと進言する。

大丈夫です、と言う夫婦にやりたいのですと告げると嬉しそうに顔を綻ばせて礼を言われた。
お世話してもらってるのは私達の方なのに、とても素敵なご夫婦だと思う。
冨岡さんの分は少し遅れて来た蒼乃さんが持っていくと言って既に運びに行っている。

献身的な態度はとてもいいのだけど、静かな方が好きな冨岡さんにとっては些か困った事になっているのだろうけどあと一日だけ我慢してもらわなきゃいけない。

ご夫婦に鬼が出たのでもう一泊させて欲しい旨を伝え頭を下げたら慌てて頭を上げてくれと言われた。


「しかしあの男性、何か胡散臭いんだよなぁ」


お借りした部屋で朝餉を済ませた私は自分の日輪刀と、形見の日輪刀の手入れをしながら一人呟く。
鬼と退治するかもしれないならこういう準備をしておくのも必要不可欠だ。
とりあえず考えるのはやめて刀を手入れする事に集中していると襖が控えめに叩かれる音が聞こえて顔を上げる。


「はい」

「鬼狩り様、蒼乃です。少しよろしいでしょうか」

「…えぇ、どうぞ」


今回はきちんと訪問してくれた事に驚くと同時に何だか面倒くさそうな気配も感じた。
失礼します、と言って部屋に入ってくる蒼乃さんが私に笑顔を向けてくる。ちょっとゾッとしてしまったのは秘密だ。


「えと、それで…ご用とは何でしょうか」

「冨岡様と鬼狩り様はどういったご関係なのですか?」

「何故です?」

「この前まるで恋人のような距離でしたので」


蒼乃さんは笑っているはずなのに目の奥が笑っていない。面倒くさそうな事に巻き込んでくれましたね、冨岡さん。


「同じ鬼狩りですよ」

「でしたら、遠慮も何も必要ないという事ですよね?」

「そりゃそうです」

「そうですか、それなら良かった」


今度は心からの笑顔で可愛らしく首を傾げた蒼乃さんは礼儀正しく部屋を出て行き、私に束の間の安息が訪れる。
とりあえず夜は動くし寝るかと小さく蹲って休憩を取った。
気配も無く部屋に入ってきた人物に頭を撫でられた事も気付かずに。



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