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「…何でしょうか」
「何故伊黒と飯を食べる」
「お誘いを受けたからです」
何を言っているんだこの人。
冨岡さんに掴まれた肩が少し痛くて思わず私も苛ついてしまう。
確かに私は冨岡さんと同じく生活をさせてもらって継子の様な立ち位置には居るけど、何もない時間までこの人に付き従わなければならないという決まりなんてない。
「本当は伊黒と会うために髪も整えたのか。簪を置いて」
「っ、そんな訳ないでしょう。どうしたんですか冨岡さん、貴方らしくありませんよ」
「…胡蝶に」
「胡蝶様?」
「冨岡様、こちらにいらしたのです、ね…」
冨岡さんが何かを話そうとした瞬間私の部屋の襖が勢い良く開いた。
一応私がお借りしてる部屋なんだけどな。
何もかも苛つく要素しかないこの部屋の現状に深くため息をついた。
私を巻き込まないで欲しい。迷惑だ。
私と冨岡さんの距離に目を見開いた蒼乃さんに唖然としたままの冨岡さんを引き渡す。
「申し訳無いのですが冨岡さんの事お部屋へ連れてって下さいませんか。私はお風呂をお借りしますので」
「え、あ…はい」
「冨岡さんはまだ熱があります。彼に好意を持つのは構いませんが、今回こちらにお世話になっているのは休養の為。追いかけ回すのは辞めてあげてください」
必要最低限の事を蒼乃さんに告げて私は風呂場へ向かった。
何だと言うんだ。さっそく伊黒様に頼りたくなるような事ばかり起きて嫌気が差す。
冨岡さんと共に行動してきたがこんなに嫌な気分になるのは初めてだ。
脱衣所で服を脱ぎ、熱めの湯を浴びる。
人にあんな酷い態度をしてしまうなんて反省しなければいけない。
しかし私が注意した時の蒼乃さんの表情は少し寒気がした。
「はぁ」
今日は幸いもう夜になっているし、朝起きたら冨岡さんの体調次第ですぐにでもここを出よう。
寝て起きたらもう終わるのならあんなにイライラすることもなかったんだ。
明日の朝、冨岡さんと蒼乃さんに謝ろうと決めて湯に体を沈める。
「でも何で誰かと会っていた事なんか分かったのかな」
あの時の冨岡さんは少し怖かった。
訳が分からないと苛立ってしまったから気付かなかったけど、別に伊黒様は私に触れた訳でもない。
しかし考えても無駄な事は無駄なので体が温まった頃お風呂を出て就寝した。
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