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目が覚めたら外はもう暗かった。
ゆっくり首を回して、髪に差したままの簪を一度抜いて鏡台の上に置く。

髪の毛がだいぶ伸びた気がする。

いつの間にか側にいるかー君は何を言う事もなく座布団の上に鎮座しているし、今日は任務も無さそうだ。
今の内に髪を整えようと、出かける支度をする。
冨岡さんはまだ風邪を引いてるし、ここのお家の方々は皆さん優しそうだから任せても大丈夫だろう。
そう判断して腰に刀を差し襖を開けた。


「…あ」

「まあ、鬼狩り様!お出掛けですか?」


襖を開けた先に娘さんに支えられるというより抱き着かれた状態の冨岡さんが居た。
思わぬ光景に思わず間抜けな声が出たけど、仕切り直すようにこほんと一つ咳払いをする。


「…永恋、何で髪の毛を下ろして」

「私は少し髪を整えに行ってきますね」

「なら俺も」

「冨岡さんは風邪を引かれているんですから、ちゃんと面倒を見てもらってください。人のご厚意を無下にしてはいけませんよ」


何故だが無性にその光景に腹が立ち、助けを求めるような目を向ける冨岡さんに冷たい言葉を言い放ってしまう。
いや、本心ではあるのだけど。

娘さんは冨岡さんの名前を教えてもらっていなかったらしく、嬉しそうに冨岡様と復唱している。
まぁ何というか顔が良いのでこの年頃の娘さんは心寄せてしまうのだろう。


「冨岡様、お連れ様もそう言っていますし私にお掴まり下さいませ!蒼乃<その>が喜んでお世話致します」

「…ほっておいてくれ」

「蒼乃さん、冨岡さんの事よろしくお願いします。では」

「えぇ!おまかせ下さい!」


冨岡さんと蒼乃さんに頭を下げ踵を返し靴を履きに玄関へ向かう。
その間も嬉しそうな蒼乃さんの声が廊下に響き渡り、私の心のもやもやは晴れることがなかった。

途中で出くわしたこれから夕餉を作ると言った奥様に自分は外で済ませてくる事を伝えて街へ向かう。
蒼乃さん、とても美人な子だったな。
そんな事を思いながら理髪店を訪れ、髪の毛を整えてもらう。

ぼーっと鏡を見ていると、整えるだけだった髪はあっという間に少しだけ短くなりお金を渡して店を出る。


「おい」

「…」

「貴様俺を無視するとは良い度胸だな」

「え、私でしたか?すみませ…」

「やはり冨岡の下で生活をしているだけあってどうしようもない愚図だな。しかも俺の気配に気付きもしない奴が柱候補とは笑わせる。月の呼吸とやらは珍しいと気にはなったがその使い手がこの様な凡愚とは」


ネチネチと話すこの感じ、絶対に蛇柱様じゃないか。面倒なお方に会ってしまったと思ったが、ここで無視をしても何も良いことにならないのは分かるので頭を下げてとりあえず謝った。




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