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息を吸って、吐いて。
刀が教えてくれるかの様に体が勝手に呼吸をし始めた。
普通に過ごしている時の呼吸ではない。
歯を食いしばりゆっくり息を吸い込み、吐き出す。
深呼吸をしているはずなのに、体が緩んだ状態になるのではなく集中力が増すかのような感覚。
思い出すのは睦月の山の空気と、漆黒の夜空から優しく光を照らす少し欠けた月の光。
「壱之型、睦月」
何も意識はしていないのに、自然と言葉が出た。
瞳を閉じれば家中の空間とその周辺を把握する事ができた。
脳裏に家の間取りの映像が入ってくる。
「…これ、は?」
「月の呼吸を会得したみたいだね、月陽」
「父さん…つ、月の呼吸って?今わたしがやったこと?」
「そうだよ」
脳内が今起こったことを処理出来ずに居ると、久しぶりに聞いた低い優しい声が降ってきた。
振り返ってみると、音も気配もなく屋根へと降り立った父さんがいる。
その顔には久方ぶりに見た笑顔。
無意識に涙を零しながら月の呼吸とは、今自分がした事は何なのかと聞いていた。
「月の呼吸はね、この家が代々受け継いできた鬼を殺す為の…人々を守る為の手段なんだ」
「お、おに…」
「あぁ。月陽にも話した事があるね?人を食らう悪鬼の事だ」
優しく優しく頭を撫でて、抱き締められた。
その行動は嬉しいはずなのに、父さんからは悲しそうな空気を含んでいる。
「月の呼吸と言うのは、決められた型がないんだ。月陽に最後の修行だと言って何も言えなかったのはそういう理由があったんだよ」
「じゃあ父さんのはわたしとは違うの?」
「父さんはほとんど習得することは出来なかった。月の呼吸というのは修行をすれば誰でも会得する事ができるわけじゃない」
父さんは私を抱きしめたまま月の呼吸の話をしてくれた。
本来ならば水の呼吸や炎の呼吸、育手といった元柱という方たちの指導を受け授かる物だと。
稀に月の呼吸のように、独自の型を持った人も居るのだと言うことも。
そういう人を集めた鬼殺隊という政府非公認の組織があり、父と母はそこに居た過去を持つことも教えてくれた。
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