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「冨岡さん、荷物お持ちしますよ」

「いや、いい。帰るぞ」


何故だろう、なかなかこちらを見てくれない冨岡さんに思わず頭を抱えそうになる。
首筋の件を黙っていたからなのか、胡蝶様に揶揄われて単純に機嫌が悪いのか、それともどちらも該当しているのか私には分かるはずもなく取り敢えず冨岡さんの後ろへいつも通りついて行く。

蝶屋敷から冨岡さんの家までそれなりの距離があるし、適当に宿でも取るのだろう。
向かっている方向も街の方だし、藤の家にお世話になるのかと聞いても今は返事が貰えそうにないので黙っておいた。


「…永恋」

「はい」

「お前は俺が嫌ではないのか」

「…昨日の件でしたら私は気にしてませんよ」


無言でひたすら歩いていたら冨岡さんがこちらを振り向いて突然話しだした。
前者だったかと内心思いながら冨岡さんの言葉を否定するために首を横に振る。

確かに驚きはしたがあれは未遂であったし、これから先私も気を付ければいいこととしか既に捉えていないので出来れば冨岡さんも気にしてほしくないのが本音。
話をぶり返されるのは流石に恥ずかしくて仕方がない。


「風邪を引いて人肌恋しくなったのでしょう」

「…ならお前は誰でも許すのか」

「そんな訳ないじゃないですか。まず気を許せない人と寝食を共にはしません」

「俺ならいいという事か」

「何かそれはちょっと違う気がしますけど、冨岡さんだから許せたのかもしれません」


何だかよく分からない質問攻めをされている気もするけど、冨岡さんが真剣に聞いてくるし私もきちんと本心をお伝えした。
これで満足してくれて、今後一切この話題は終わりにしてくれたらいいのだけどまた更に考え込んだように口元に手を当てて歩き出した冨岡さんに思わずため息が出そうになる。

結局その後冨岡さんも私も無言で藤の家にお邪魔した。
そこは若い女性と老夫婦が三人で暮らしていて、冨岡さんを見た瞬間の女性の顔を見て嫌な予感がしたけど兎に角ここら辺にはこの家しか無いらしくお世話になりますと頭を下げる。


「鬼狩り様、どうぞごゆっくりしていってくださいませ」

「ありがとうございます。あの、私と一緒に来ている冨岡さんの事なんですが少し体調を崩していますので…」

「かしこまりました。お医者様はお呼びになりますか?」

「いえ、薬は事前に用意してありますので少しだけ気にかけて頂けたらと思いまして」

「では娘にはそのように伝えます」

「お手数おかけします」


勿論冨岡さんと私の部屋は別なのでこちらの部屋に来てくださった奥様に彼が風邪気味だと言う事を伝え、部屋に一人となった私は刀を側に置き足を伸ばした。
お館様の所へ行ったあと何だかんだ色々あって疲れた。昨日は冨岡さんが腕枕してくれていたとは言え床で寝たし疲れはそこまで取れていなかった為、仰向けに寝転がって体全体を伸ばす。


「夕餉にはまだ時間もあるし少し寝ようかな」


隣の冨岡さんがいる部屋から聞こえる可愛い声が聞こえた気がするけど私は気にせず目を閉じた。





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