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とりあえず文句を言いたげな冨岡さんを置いて、比較的濡れていない私の中着を取りに行き頭を膝に乗せて髪の毛を拭く。
本当なら布団の1つでも掛けてあげたいけどここにはそんなものはない。
ある程度乾いた所で冨岡さんが今にも寝そうだったので、手櫛で髪を整える振りをしながら頭を撫でるとゆっくり瞳が閉じていく。
暫くそうしていると、小さく寝息が聞こえた。
「…子どもみたい」
普段の冷静沈着な瞳は閉じられ、あどけない寝顔を見てただそう思った。
お互い半裸のままこうしている事には違和感があるし、熱に浮かされていたからと言ってあの行動には心臓が止まりそうになったけど、きっと風邪を引いて無意識に人肌を求めていたのかもしれない。
「っ…、ん」
「ん?」
「蔦子、姉さん」
擦り寄るように頭を動かした冨岡さんが誰かの名前を呟いた。
姉さんと言っていたからそうなんだろうけど、それなりの期間一緒に居てお姉さんとはお会いしたことはないし、話を聞いたこともない。
腕を伸ばして火を継続する為の木材を少量放り込み、頭を支えて膝を抜くと寒さのせいか身震いをした冨岡さんに恐る恐る抱き着く。
すると私を抱き込むように腕枕をしてくれたのは無意識なのだろうけど、誰かに抱かれて眠るなんて父さんや母さん以外初めてで。
久し振りに誰かと一緒に寝るな、なんて思いながら互いの体を温めるように寄り添いつつ私も目を閉じた。
冨岡さんが良い夢を見れますように。
明日起きたら少しでも体調が良くなりますように。
雨が打ち付けられ冷えた身体は思いの外疲れが溜まっていたらしい。
冨岡さんの少し熱い体温によって私も意識を手放した。
その日私は、父さんと母さんの夢を見た。
小さい私が二人に挟まれて両脇から抱き締められて布団に入った思い出。
父さん、母さん。
私は今とても人に恵まれ、有り難いことにまだ命を繋いでいるよ。
朝、目を覚した後冨岡さんが悲鳴にならない悲鳴を上げたことによって私は飛び起きる事になった。
「おま…」
「先に言っておきますけど襲ったのは冨岡さんですからね」
「!?」
「もう!着替えるのでそっち見ててください!」
昨日の事なんて覚えて無さそうな冨岡さんに背を向けて乾いた隊服を身に纏った。
冨岡さんはまだ熱がありそうだったので、帰り際に蝶屋敷へ寄る予定と言う事を伝えて折り畳んだ隊服を渡す。
「…永恋」
「何でしょう」
「責任は取る」
「何もしてません!いいから服着てください」
「?」
まだ熱があるせいか、頭の中が色んな意味でふわふわしてる冨岡さんが隊服を着ているのを視界の端で確認して戸を開く。
外はすっかり晴れ渡っていて私と冨岡さんの鴉が木に止まってこちらを見ていた。
「かー君、これから蝶屋敷に向かうから連絡しておいて!」
「ワカッタ」
二羽の鴉は一緒に旅立ち蝶屋敷へ向かった。
後ろを振り返って正座をしながらこちらを見ている冨岡さんに思わずため息をつきそうになりながらも、額に触って熱を確認する。
まだ高そうだけど、私が冨岡さんを背負って山を降りることは出来ないので歩けるか聞けば黙って頷いてくれた。
「冨岡さんが風邪を引いてしまったのは私の責任です、今回の事はお互い様と言うことにしましょう」
「昨日俺は何をした?」
「押し倒された…だけ、です」
「…すまない」
「…大丈夫ですよ。気にしてないです」
戸を跨ぎながらしょぼんとする冨岡さんに笑い掛けて手を引く。
足取りはそれなりだけど、冨岡さんが足を挫いても困るので私は仕方なく手を繋いでるだけ。
「(押し倒しただけなら永恋の首筋に見えた赤いものは虫に刺されただけだったのか)」
「?」
「いや」
なにか言いたげな冨岡さんを振り返って首を傾げたけどなんでもないみたいだった。
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