3


「分かってる」


冨岡さんの言葉に自分の目が見開くのが分かった。しかしその言葉だけを鵜呑みにするのは早計であるのは今までで分かっている。
彼が言いたいことを考えなくては、そう思った時冨岡さんの顔が私の首筋に降りてきた。


「っ、ひ!」


優しく首を吸われ思わず身体が跳ねる。
思わぬ反応をしてしまった自分自身に戸惑いを隠しきれないままなのに、冨岡さんは私の手をもっと強く握り同じ場所を舐めた。

初めての感覚に頭の中が真っ白になる。
どうしたの、冨岡さん。そんな言葉が浮かぶのに口から出るのは言葉にならない音ばかり。


「お前が女である事も、俺が男である事も分かっている」


やっと首筋から顔を離したかと思えば、熱の篭った瞳で私を見つめる冨岡さんが視界総てを占めている。
珍しく自分から話し出す冨岡さんを私はただただ見つめる事しか出来ない。


「知っているか。お前が隊士の間で有名な事を」


問われた質問に何とか首を横に振って答える。
いつの間にか熱の篭った瞳は冷え、何を考えているか分からない色をしている。


「涙は流さずとも、お前は人の心に寄り添う事が出来る。そしてどんな状況下でも、悲観せず前を向き努力を重ねている。そんな人間が人を惹き付けない訳がない」


熱い額をくっつけられ、冨岡さんの濡れた髪から雫が落ちてくる。
結局何が言いたいのだろう、私には分からない。
首を縦にも横にも振ることも出来ずただ彼の吐露する感情を受け止める。


「安心しろ、お前は十分魅力的だ。折角俺が抑えようとしているのに、分かってない」

「抑え、てる?」

「月陽、お前は」


そこまで言って冨岡さんは私に全体重を預けた。
どうしよう、と焦る私とは別に全く焦る様子がないというか何というか


「え!?」


冨岡さんの身体がとても熱い。
額が熱い気がしたけどもしかして風邪なんじゃないだろうか。
息も少し荒いし、こんな風にらしくない事ばかりしてるのはこれの所為なんじゃないだろうかと握られた手をゆっくり解いて首筋に手を這わせる。


「ちょ、熱いじゃないですか!」

「気のせいだ」

「貴方自分の体調くらいちゃんと分かる人でしょう!一回離れて下さいまったく!」

「イヤだ」

「子どもか!」


このままじゃ悪化してしまう。
熱い息が私の胸元に掛かるのもちょっと色々厳しいものがあるし、今の状態なら冨岡さんにも力で勝てそうと判断して勢いをつけて今度は私が押し倒す体制に変わった。


「…っ」

「いや、顔がいい」

「?」

「はっ、違う!冨岡さん、大人しくしてくださいね!まずは少しでも水分取らないと…髪紐取りますよ」


下から私を見上げる冨岡さんに思わず場違いな一言が漏れてしまったけど、腕を首筋に通していつも適当に結っているらしい髪紐を解いた。
乾いたタオルでもあればいいのだけど、生憎ここには濡れた服しかない。

どうしたものだろうか。
部屋を見渡して使えそうなものはないか探して頭を回転させた。





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