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「ふぇっくしょ!!!」
沈黙を破ったのは私のくしゃみでした。
脱いでいない隊服が重さを増し、更には冷たい布が体をぴったりと張り付く感覚に不快感を覚える。
しかし一応女である私は冨岡さんのようにぽんと服は脱げない。
「背を向けているから、その濡れた服を脱げ。お前が意地を張るなら脱がす」
「うぐっ!なんて台詞を言うんですか」
「興味はないから安心しろ」
ふと冨岡さんが言った言葉にちくりと心臓が痛む。興味無いのは知ってるけど、そう言われるとやっぱり悲しい。
背中を向けた冨岡さんの姿を確認して、仕方ないと隊服を脱ぐ。
布擦れの音が嫌に響き、あっという間に脱げば私が今纏っているのは下着だけ。
「囲炉裏に少しでも近寄って冷えないようにしろ」
「はい」
「…どうした」
冨岡さんに興味無いと言われた私はちょっとだけ拗ねていた。掛けられた言葉にむすっとしながら返事をしたら空気を感じ取った冨岡さんがこちらに背を向けたまま声を掛けてくる。
「いえ、何でも」
「言え」
「別に」
「……」
下着だけとなった自分の体を抱き締めながら囲炉裏の火を眺める。
無言の圧力が冨岡さんから感じられたけど、話す気にもなれず初めて無視をしてみた。
興味無いのなら何で簪をくれたんだろうと考えて、しっかり私の髪を支えてくれていたそれを外す。
因みに髪の毛を乾かすために一時的に取るだけで他意はない。ちょっと悲しくなっただけで、この簪が大切な事に変わりはない。
胸の辺りで揺れる首飾りも少しひんやりしている。無くさないよう首飾りの輪に簪を差して髪を手で梳かした。
冨岡さんは寒くないのだろうか、と黙ったままの彼の姿を視界に入れる。
何故だ、何故彼の顔がこんなに近くにあるんだ。
こちらを見ないと言ったのに、と講義の声を上げようとしたら視界が反転した。
「…はい?」
「勘違いさせたか」
「いや、だからその…はい?」
「お前に興味が無いと言ったわけじゃない」
何を言い出すんだろうこの人。
しかもお互い半裸の状態で押し倒しておいて、拗ねた顔をしている。
今自分がやっている事を分かっているんだろうか。
拗ねていたのは私だと言うのにいつの間にか逆になっている。
「あの、1ついいですか」
「何だ」
「今この状況を冨岡さんは自覚済みなのでしょうか」
押し倒された私は冨岡さんの配慮で頭を打つことなく両手を握られ拘束されている。
冨岡さんは私の体を跨ぎ、経緯を知らない赤の他人ならこれから始まる事を勘違いしかねない状態なのだ。
きっとこれさえ無自覚なんだろうと思っているけど、あえてこう言ったのはさっき傷付けられた仕返しである。
冨岡さんはもう少し自分が男で私が女という事を自覚して貰いたい。
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