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ゆっくりと、優しく冨岡さんの腕が私の体に回される。
少しだけ顔を見たくて体を離そうとすると、力を込めて強く抱き締められた。


「きっと、俺は俺を否定し続けるだろう」

「…冨岡さん」

「だが、お前が俺を肯定し続けてくれるというのならそれは嬉しい」


私の首筋に顔を埋めるようにして、冨岡さんがゆっくり話しをしてくれている。
その事実が嬉しくて、顔を摺り寄せた。

自己否定は他人に言われてやめる事なんて早々にできる訳じゃない。
でも、自分を肯定してくれる存在は心を軽くしてくれる。
根本的な解決はきっと自分自身でしなくてはできない事だから、いつか冨岡さんが自分を認める日が来ればいいと心から思う。

そう思っていると、バサバサと鴉の羽の音が聞こえた。


「冨岡義勇!永恋月陽!至急任務ニ迎エ!」

「っっ!!!」


突然の大音量に思わず抱き締めあっていた体をお互いに勢いよく離した。
思わず感情のままあんな事をしてしまったけど、今思うと恥ずかしくて顔を両手で覆う。

私は何を、と思って指の隙間から冨岡さんを覗くと顔色は変わってないけど耳が赤くなっている。

涙なんて出ないけど、羞恥心で涙が出そう。


「…かー君、因みに場所は何処かな?」

「コノママ西ヘ進メ!」

「だ、そうです。行きましょうか、冨岡さん」


鬼の出現となれば気を引き締めなければならない。
切り替える為に一度深く呼吸をして冨岡さんに言葉を掛ければ無言で頷いてくれた。

まだほんの少し、私の心臓は早鐘を打っている。
その鼓動がバレないようにちょっとだけ早歩きで空を羽ばたくかー君の指示に従って追い掛けた。


(月の呼吸を早く会得しなきゃ。その為には頑張らないと)


胸にぶら下がる形見に触れ、西の方角へと向かった。
美しいと月の呼吸を褒めてくれたお館様たちと冨岡さんをがっかりさせないよう精進しなくちゃ。
私達は鬼に対する力のない人々の為に刀を振るう鬼殺隊。一人でも多くの命を守る為に浮ついた気持ちを落ち着かせ、事に当たらなければいけない。

両手で思いっ切り頬を叩くと、その音に冨岡さんが小さく驚いていた。
自分なりに気合を入れるためだったけど、ちょっと強すぎた感が否めないくらいひりひりしてる。

何をしたかったのか冨岡さんは気付いたのか、振り向いた顔を前に向けてやれやれと頭を振っていた。



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