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ただ素振りする毎日が続いた。
父も母も食事や風呂を用意はしてくれても言葉を掛けてくれることはなかった。

夜月を見るために屋根へ登った私の耳が拾った母の啜り泣く声。

元々体の強くない母が泣くと負荷がかかる。
心配して部屋を訪れようとしたのに、たった一枚の襖を開けることは出来なかった。

どうして泣くの
どうして泣いているの
私を想って泣いてくれているのならどうしてやめてくれないの



「もう、わからない」



何も分からないまま、この1年半を過ごしてきた。
最後の修行を言い渡されてから変わった事は何一つとない。

仰向けに寝転がり月を見上げた。




「最初のお山は冷えてて寒かったな」



小さい声で独り言。
別に誰かに反応して欲しいとは思わない。答えのない事にもう諦めもついてきた。

私は父や母の期待に答えられない。
なんの期待をされてるのかも分からない。

瞳を閉じた瞬間目の端から涙が溢れた。


もういい。
もう無理だ。
わたしは頑張ったよ。


そう自我自賛して体をすり抜けていく風に身体を震わせた。




―――四季折々の風を感じなさい。匂いを感じなさい。満ち欠ける月を見なさい。

母の言葉がふと頭に浮かぶ。


睦月の山はまだまだ雪が残り、冬眠している動物を起こさないよう気配を探りながら山を降りた。
如月の山は少しずつ色が緑に戻ってきて、草が芽吹いていた。
皐月の山は風が少しずつ暖かくなり、動物がたくさん出てきた。
葉月の山は彩り、次第に寒くなる風に葉を落とした。風に乗って舞散る葉を木刀で斬れと言われた時は無理に決まってると言い返したかった。


四季折々の山を見た。暖かかったり、寒かったりする風を感じた。
後は月だ。なぜ母は月を見ろと言ったのか。

右手に持っていた刀を何となく月に翳した。



「きれい…」



白の刀身はまるで月と同化するかのように輝きを放っていた。





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