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「月の呼吸と言うのはとても不思議だね。環境と聞いたから、義勇を始め色々な柱の元へ行かせようと思ったけど水の呼吸とは相性がいいみたいだ」
「前の使い手の方もそうだったのでしょうか…」
「分からない。だが、月陽の体や刀がその相性を示しているんじゃないのかな」
傍らに置いた日輪刀を見てお館様が柔らかく微笑んだ。
私の日輪刀は透明。しかし最近峰の部分に薄っすらと青色のラインが出来ていたのに気付いた。
「透明と聞いて驚いたけど、きっと月の呼吸は何色にも染まれるんだろう。だからこそ無色透明なんだ」
「何色にも、染まれる」
「四季折々の月の名を借り、その体や瞳に映してきたものを刃で示す。だから月陽の型はとても美しい。義勇も褒めていたよ」
母が言った事を思い出した。
毎日違う姿を見せ、四季折々に色付く景色や月の形を見なさいと言っていたのは私がこうして心に残る景色を体現出来るようにと助言をしてくれていたのだ。
穏やかに微笑んでくれるお館様とあまね様。
普段から拾弐ノ型まで会得したいと思っていた気持ちがもっと強くなった。
私を育ててくれた両親の想いが私の呼吸に影響すると言うのなら、中途半端なんてしたくない。
「私、まだ冨岡さんの元で勉強させて頂きたいです」
「うん。そう言ってくれると思ったよ」
「お館様、あまね様。ありがとうございます。私を鬼殺隊へ入れてくださり、感謝してもしきれません。一族の想いを、私が必ずや形にして見せます」
深々と頭を下げ、出来うる限りの感謝の気持ちを伝えた。
お館様は満足そうに頷いてくれる。
「だ、そうだよ。義勇」
「え?」
「失礼致します。お館様」
満足気に頷いたお館様は背後にある襖へ声をかけるとゆっくり開いたそこには居住まいを正した冨岡さんがいる。
ど、どういう事…
色々急過ぎてついて行けない私にあまね様が立ち上がりお館様の手を握りながら微笑みかけてくれる。
「水柱殿にも月陽殿はとてもいい刺激になりましょう」
「あまね様…」
「仲良くするんだよ。義勇、月陽。それと、その簪とても似合っているよ」
あまね様に支えられお館様が退室される事に急いで頭を下げ、言葉の意味を問えなかった。
まるで質問は受け付けないと言うような、いたずらに微笑んだお館様にも驚く。
お館様もあんな顔されるんだ。
「帰るぞ」
「え!?」
「なんだ、帰らないのか」
「帰りますよ!」
「お館様もあまね殿も退室された。俺は帰る」
色々突っ込みたいところはあるけど、兎に角お館様が退室された以上要件は終わりという事だ。
いつまでもここに居るなんて失礼に当たってしまう。
私は急いで靴を履いて冨岡さんの背中を追った。
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