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一瞬の沈黙。
あぁ、お館様の有り難いお言葉を無下にするなんてなんて私は愚かで無力なのか。
膝の上に置いた手に力が入って皮膚に爪が食い込むのも気にせず歯を食いしばった。
「月陽、それ以上自分を責めてはいけないよ」
「…しかし、私はお館様のご期待に答えることが出来ておりません」
「私はね、月陽。子供たちに階級を与えては居るけど、それによって愛情が変わる事なんてないんだよ」
「ですが…」
未熟な私の隣に忙しい柱がいてくれる事。
それがいかに贅沢なことであるか私は自覚している。柱となれば相手の強さも忙しさも私達のような階級とは全く異なる。
「義勇から報告は逐一貰っているよ」
「…はい」
「とても助かっていると、いつも文の最後に書いてあるんだ」
「そ、そんな!私は…」
「おや、義勇が嘘をついていると言うのかい?」
「いえ、でも」
「あの子はきっと言葉が少ない子だから、そうだね…あまね。読んであげてくれないか?」
お館様がそう言うと黙して控えていらっしゃったあまね様が頷きながら懐から紙を取り出した。
外側には【報告書】と書いてある。
「一部抜粋させていただき、代読をさせていただきますね」
『永恋月陽は、未だに月の呼吸全てを会得しておりません。然しながらこの間の浅草にて新しい型を会得し、十分な戦力を持って鬼を断ちました。共に戦い、共に生活をし、彼女の思いや覚悟は皆を纏める柱としての素質を十分に持ち得ています。本人次第ではありますが、このまま柱となる事も可能でしょう。しかし此方でまだその未開発な才を伸ばしたいと言うのであれば謹んで継続し見守っていく所存です』
冨岡さんは文章だと長文なんだと一瞬思ってしまったけど、綴られた内容に胸が締め付けられた。
未熟な私を冨岡さんはしっかりと見てくれている。
勿論あの人が適当な事をするとは思っていないけど、こんなに見ていてくれていたなんて。
「さて、義勇は君をもう少し見届けたい様だ。柱の件はまた機会を見るとして、これから月陽はどうしたい?」
「私は、まだこの階級のまましっかり型の習得をしたいと思っています」
「ふふ、そう言うと思ったよ。これは秘密にしていた事なんだけど、私が義勇に面倒を見る様に言ったのは月陽が鬼を50体斬るまでの間だったんだ」
「え!?」
「君には出来るだけ強い鬼と相対して欲しかったんだ。月の呼吸、それは関わる四季や景色、そして人と環境によって変わると聞いた」
「お館様、お館様は月の呼吸を知っておいでなのですか?」
「いいや。目にした使い手は月陽、君が初めてだ。でも文献に書いてあることだけは知っている」
お館様の言葉に目を見開き私は言葉が出ない。
月の呼吸の文献とは恐らくお館様だけが拝見する事の出来る物なのだろうが、そんな事一度も言われた事なんてなかった。
あまね様がお館様へ1つの文献を差し出す。
「月の呼吸は人によってかたちを変えるようだ。それは恐らく月陽も知っている事だね?」
「は、はい。父から聞きました」
「月の呼吸の使い手は鬼殺隊が出来て一度しか生まれておらず、日輪刀も色とりどりだと言う」
「習得が難しい物と聞いておりましたがこれだけの年月で一人とは…」
「そう。月陽の扱う月の呼吸はそれ程に希少であり、変幻自在と言える。だけど、残念ながら文献にはここまでしか書いていないんだ」
これ以上は私も知らないと空白の多い文献の中身を見せて困ったようにお館様は笑った。
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