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若干の冷や汗をかきつつ周りの視線が私達に集まっているのが分かった。
ここで私が断ったり、お金を出すと言えば冨岡さんに恥をかかせる事になる。


「ありがとう、ございます」


もう恥ずかしくてどうにかなりそうな気持ちのまま両手で簪を受け取った。
そのまま懐に仕舞うのは何だか勿体無い気がして、不慣れな手つきで結った髪に差し込めば目の前の冨岡さんの雰囲気が柔らかくなった気がして顔を上げる。


「…っ、」


そこには目を細めて美しく笑った冨岡さんが居た。
なんで、そんな顔をするの。分からない。
この動悸のような心臓の動きは何なのだろう。父さんや母さんに撫でてもらった時とはまた違う。


「行くぞ」


冨岡さんがふと見せた笑顔に周りの女性がざわついていたのは気付いたけど、今の私にそんな余裕は無くて。
またゆっくり歩き出す冨岡さんの後ろを追い掛ける。

その人混みの中に白銀の髪が混ざっていた事に気付かないくらい、私の頭の中は冨岡さんの笑顔で一杯になっていた。


そのままゆったり街並みを見ていたらいつの間にか私の動悸も治まり、日暮れには鬼を狩ることだけに切り替えることが出来ている。
今私は人通りの少ない裏路地を歩いていた。

冨岡さんは表通りを警戒しているはず。
被害に合うのは女性と聞いたが、その一人を私が引くとは限らない。

竹刀入れを前に抱えゆっくり歩く。
今の所鬼の気配はない。外したかと内心舌打ちしそうになった瞬間前から歩いてくる女の子が居た。
まだ齢一四くらいか。ここは危険だと話し掛けようと手を伸ばした瞬間、雰囲気が変わった。

瞬時にその場から飛び退き、初めて自分の日輪刀を構える。


「オ"、カーサン」

「こんな、子どもが…」

「おかーさん?オカーサン?オ"…ォオ…」

「悪いけど斬らせてもらうよ。月の呼吸 参ノ型、弥生!」


両手を前に突き出し、裂けた口からは尖った歯がギチギチと音を鳴らしている。
私の感が正しければこの鬼は恐らく分身だ。
尚の事時間など掛けられない事は火を見るより明らかである。

音も無く頸を跳ねればその姿は泥のような何かに代わりその場に崩れ落ちた。

背後からこっちに走り寄る音が聞こえて、振り向いた先で息を切らした女性が脚を縺れさせ転んでしまっている。


「大丈夫ですか!?」

「たっ、助けて…!」

「貴方は私が守ります!早く立ち上がって、今すぐ人混みの中へ逃げなさい!」


その女性は人だったが、自分の後ろを指した先には先程と同じ容姿をした鬼が全力疾走でこちらに向かってきている。
細い裏路地で女性を庇い立つと出来る限り彼女の服が汚れないよう皐月を繰り出した。


Next.



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