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「…永恋」


宇髄様の人柄に私の緊張はあっという間に解け、ほんの少し話をしていると私の名前を呼ばれた。
少し機嫌の悪そうな冨岡さんの声だ。


「よう、冨岡」

「宇髄か。何の用だ」

「お前の所に女が住み込みで柱候補が任務を暫く共にするって聞いてな。ちょっくら派手にからかいに来たってわけだ」

「いえ、さっき奥様方の機嫌を取るための土産を買いに来たと仰ったではありませんか」

「まぁそれも込みだ!」


宇髄様はとても良い人だが冨岡さんの機嫌を損ねるのだけはやめて頂きたい。
無口だし、何なら無言で空気を凍らせるのは辞めましょう冨岡さん。

宥めるようにこっそり羽織の裾を引っ張ってみたが、特になんの効果も無さそうな上に宇髄様が気付いてしまった。


「まぁこれから任務なんだろ。だったら邪魔は出来ないからな!頑張れよ、月陽」

「いたっ!?力強すぎませんか宇髄様!」

「派手に気合入れてやったんだよ!」


裾を引っ張った事を突っ込まず意外とあっさり引いてくれた宇髄様は、後ろ手に片手を振りながら街の中に消えていった。
相性が悪そうなお二人だと思う。
と言うか冨岡さんが相性良さそうな人っているのかなとか失礼な事を考えつつ顔色を伺ってみると相変わらずの無表情でした。


「あの、はぐれて申し訳ありませんでした」 

「…気を付けろ」

「はい、すみません」


素直に謝れば許してくれたのか頭を優しく叩かれ、冨岡さんはゆっくりとした歩調で歩き出した。
今度は離れないように真後ろを歩いて私はその背中についていく。

ふと冨岡さんが止まる気配を見せたので視線を同じ方向へ向けると小間物屋があった。


「どうかしたんですか?」

「…こういう買い物はいいのか」

「え?」


視線で指したものは簪だった。
どどどどどうしたのだろうか。やっぱり先程の事を怒っているのかな。
恐る恐る冨岡さんの顔を覗き込むが怒ってる雰囲気は見受けられない。

こういう物は暫く見ていないから、それなりに嬉しいのだが本当にいいのだろうかと思案していると冨岡さんの右手が一つの簪を取った。


「…」

「わ、可愛いですね」


冨岡さんが持っている簪は桃色の椿の下から垂れ下がる様に三日月型の装飾がされている。
率直な感想が口から自然と零れた。折角選んでくれたし、その簪を買おうと財布を懐から取り出そうと思ったら


「これを貰いたい」

「おや、贈り物かい兄さん!」

「えっ!?ちょっ…冨岡さん?」


私がもたもたしてる間に冨岡さんは店主へお金を払いそのまま簪を差し出された。
こ、これは頂いていいのだろうか。



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