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あれから鉄穴森さんは帰り、道場で冨岡さんと二人っきりになった私はまだどこか上の空で二本の日輪刀を携えた。
「冨岡さん」
小さく名前を呼んでみれば無言でこっちを向いてくれる。
胸の辺りがとても温かい。
嬉しくて身体が震える。
「わたし、刀を作って良かったです」
「…そうか」
「冨岡さん、ありがとうございます」
「当たり前の事を言っただけだ」
「それでも、言いたいんです」
そっぽ向きながらいつも通り言葉の足りない返事が帰ってきて、自然と笑みが漏れた。
嫌がられるかもしれないと思いながら、冨岡さんの硬い手を握ってみる。
繋いだ所からこの気持ちが伝わってほしいと少しだけ力をこめながら。
そしたら珍しくほんの少し目を見開いた冨岡さんが私の顔を見ていた。
「私、こんなに嬉しいの久し振りなんです」
父さんと母さんに褒められた時みたいに、嬉しかった。
誰から言葉を貰ったわけでもなければ、まだまだ月の呼吸全てを得たわけでもない。
それでも、自分が歩み続けることの意味とこれまでを明確に認めてもらえたようで言葉に表せない程なんだ。
「――綺麗だ」
「…え?」
「………日輪刀が」
「あ、あぁ!でも私は冨岡さんの日輪刀の色も素敵だと思います!」
呟くように綺麗と口にした冨岡さんに私が思わず驚きの声を上げたら腰に差した日輪刀の事だった。
一瞬別の意味で勘違いしそうになった恥ずかしさに片手を上げたら未だに繋がれていた冨岡さんの手も上がる。
そう言えば握ったままだった、
「あーっ!ご、ごごごごめんなさい!私つい嬉しくて」
「いや、いい。だがそろそろ離してくれ」
「は、はいっ!」
ちょっとだけ、手を離すのが惜しいと感じてしまった。
でも離してくれと言われた以上離さないわけにもいかないし、ましてや私達はそういう関係ではない。
手を離した後、他人の温もりが無くなった自分の掌をもう片方の手で握って寂しさを誤魔化した。
Next.
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