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彼女は五つの時から剣士として育てられていた。
冨岡とは1つしか歳が変わらないと言うのに、自分がまだ幸せに暮らしていた頃から身体を傷だらけにして親の言われた通りに修行してきたのだろう。

そう思うと冨岡は傍らに置いた彼女の刀に目を向けた。
物言わぬのは当たり前だが、気を失って倒れた時でさえ刀を手から離さなかったのはそれ程大切な物なのか父からどんな時でも手を離すなと教えられたのか。
それとも両者か。


掬い上げた髪の毛を静かに下ろすと自分に用意された布団へ潜り込む。
とりあえず休息を取り、月陽が目を覚ましたら家へ帰る。そう自分の中で明日の予定を組み、目を閉じた。


「…と、さん」


小さな声が聞こえた。
耳を澄ましてそのまま何もせずに居ると気配がこちらにやってくる。

起きたのか、と寝返りをうって顔を見ようとした瞬間柔らかい温もりがぴったりとくっついた。


「……」

「とうさん」


身体は屋敷の女が清めてくれ、服も洗濯したばかりの物だからか自身の姉の様な香りに無言で引き剥がそうとした冨岡の睡魔を誘う。
寝ているくせに意外と強い力で引き離されまいとする攻防の最中、ついに冨岡が折れた。

まだ2日しか共に過ごしていないというのに、何故か絆されてしまうのは睡魔のせいか彼女の不思議な雰囲気と香りのせいなのか。
引っ張っていた寝間着を掴んだまま彼もまた瞼を閉じた。



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テーマ「人外ファンタジー」
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