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「そこの男前の兄さんや。今そこの蔓を相手にするのもいいが、妾の子鬼たちが村に向かったがよいのか?」
口元を袖で隠しにやりとした顔を浮かべる鬼に私も舌打ちをしそうになった。
なんて下衆な。まるで私達が来る事を予期していたかのような動きだ。
「冨岡さん!」
「分かっている」
私達を遮るようにある蔓に向かって声を掛ければすぐ隣で冨岡さんの了承する声が聞こえた。
隣町に行くということはそれなりに距離はあるがまだ夜は始まったばかり。
睦月を発動し、この廃村の空間を把握すれば鬼は2体と小さく蠢く何かが数個の塊で動いている。
「鬼は2体!多分ですけど、さっきの種のようなやつが何個かの塊になって北へ向かっています!」
「そっちは俺が片付ける」
「お願いします」
頭の中に流れてくる映像で冨岡さんが小さく頷いたのが見えた。
そして気配が遠ざかっていく。
私は今この現状を打開することだけを考えればいい。
刀を持ち直し鬼へと向き直った。
「おや、最期の言葉は囁き終わったのかい?」
「私は冨岡さんとそういう関係じゃない」
「あらまぁ、残念。あんなにいい男放っておくなんて」
「私は今貴女に夢中だから、ね!」
深く息を吸い込み鬼との間合いを詰める。
まずはあの蔓を操る腕を斬り落とさなければ、頸を落とす事は叶わなそうだ。
女であるが故に頸を落とす腕力は一般隊士よりも弱い事は嫌でも分かっている。
まずは再生をさせない事が第一。
しかし留まって踏み込めば恐らく蔓が絡み付いてくる。
狭いこの空間でどれ程動く事が出来るか、腕を上げて私に狙いを定める鬼から目を離さず右へと飛んだ瞬間着地しようとしている辺りに黒い物体が動いているのが視界に入った。
「っ、仕方ない!仕方ないんだぞ私!」
あの種を踏むのは非常に、非常に嫌だったが気を抜けばもっと不利になってしまう状況だ。
歯を食いしばり嫌な感覚と共にもう一度飛び上がり、その感覚から抜け出す。
この鬼とは心底相性が悪そうだ。主にこの種。
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