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その後風呂が沸いたことを冨岡に襖越しへ声を掛け、月陽は自室へと戻っていた。

膝を抱え少し欠けた月を眺める。



「父さんや母さんが私にしてくれたように、珠世さんがしてくれたようにするのは駄目だったのかー」



ぽつりと呟く。
あの時の冨岡は月陽にとってとても儚げに見えたのだ。
自分が悲しい時抱き締めて人肌を感じる事が何よりの良薬だった。

しかし冨岡の性格を理解しきっていなかったと今は一人反省会中である。



「誰かさんにも距離感がおかしいって言われたっけ」



自嘲するかのように笑みを浮かべ膝の間に顔を埋める。



(年頃の男性にする事じゃなかったのかもしれない。でも、壊れそうな時人肌は何よりの支えになるって思ってる。だけどそうする事以外私にできることが無い)



ぺたりと自分の顔を手で触り笑顔を作る。
あの日から涙が出なくなった月陽は、感情を一部欠損してしまったと引取ってくれた珠世という人物は悲しそうに目を伏せた。

真面目な時は真面目な顔だってする。
嬉しい時は笑える。驚いた顔だってする。
人の感情だって人並みに感じ取ることは出来る。

しかし月陽は誰かを想い涙する事も、感覚を分かち合い涙する事も出来なくなってしまった。
悲しいと思うのに笑顔を浮かべてしまうのだ。



「壊れてる。笑うなんて。気持ち悪い」



面白くも何ともないのに表情が笑顔を作るのだ。
こんな事をしてしまえば不快な気分にさせてしまうのも勿論気味悪がられるのが当たり前だと一人また笑顔を浮かべてしまう。

違う、笑いたくない。
自分だって困っているのだ。



「こんな私が柱候補なんて、烏滸がましいにも程があるのに」



独り言は夜の冷たい風と共に消えていく。
月陽は冨岡が風呂を出たと声がかかるまで暫く顔を俯かせたまま時間が過ぎるのをただ待っていた。



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