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「すいません、作ったことありません」
「!」
「ふふ、でも冨岡さんが食べたいなら頑張って作ってみます」
「…、あぁ」
衝撃を受けたような冨岡の顔が面白かったのか、月陽は控えめに笑いながら頷いた。
今度は違和感を感じさせない笑顔に衝撃を受けたのは冨岡もそうだったが、返事を一つしていたら米櫃からおかわり用のご飯を盛り渡された。
「何だか新婚の夫婦のようです」
「ぶっ」
「ぎゃっ!冨岡さん、汚いですよ!」
「お前が変なことを言うからだろう」
味噌汁に口を付けた途端、照れた顔を作りわざわざ米櫃の蓋で鼻から下を隠した月陽が言った言葉で吹き出す。
冨岡は側にあった布巾で机を拭く羽目になりながら、自分の膳を守るような体制を取っている彼女を睨んだ。
「無駄な戯言はよせ」
「すみません、誰かと共に食事をするのが久しぶりでつい」
「…友達いないのか」
「冨岡さんに言われるとは心外!」
「俺にだって友くらい居た」
じ、と月陽を見つめる冨岡は真菰という少女を思い出していた。
月陽の笑顔に違和感はあるが、鱗滝の元で修行をしていた頃よくその少女に揶揄われていた記憶がある。
友であり憧れであった錆兎も思い出したが、目の前の味噌汁を啜ることで溢れそうな感情ごと飲み干した。
ふと目の前の月陽が静かだと椀を置いて顔を上げてみたら無表情でこちらを見つめる瞳と視線が合わさった。
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