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その後月陽は言われた通りに、全集中の呼吸を使い全速力で町へ行き適当な野菜と魚を買い富岡邸へと戻ってきていた。
「ふぅっ…」
買い物籠を背負いながら全速力と言うのはなかなかに大変な事だと額から流れる汗を拭った。
野菜や魚が潰れぬよう、籠から飛んで行かぬようと気を使いながらの全速力は呼吸のとり方も血を蹴ったときの体幹のとり方も普段とは全く違う。
これは人を運ぶ時用にいい鍛錬になるなと買い物籠を台所へ降ろし、手を洗った。
「さて。そろそろ風呂と夕飯の支度をしなきゃ」
一杯の水を飲み、それほど長くない髪を結うと風呂場へ向かった。
冨岡の家はある程度綺麗にしてあるため、風呂釜を洗うのにも楽でありすぐに湯を張る事ができ調理もすぐに始められた。
時折冨岡の私室を見るが出てくる様子はないし、煩くはしていないのだろうと判断し夕飯の準備を進めた。
米が炊き上がるまでに煮物と焼き魚と汁物を作る。
空いた時間でぬか漬けを作り、風呂の薪に火を付けに行く。
「手際が良いな」
「わっ!冨岡さん!」
夕飯が食べ終わった頃に湯が出来上がるよう火加減を調整していると後ろから冨岡の声が聞こえ、月陽の肩が跳ねる。
言いたいことは言ったのか、隊服ではなく着流しに見を包んだ冨岡は居間へと姿を消した。
「あの方はどうしてこんなに気配が無いの…」
今日は失敗続きだが月陽は甲を授かる隊士である。
気配探知もそれなりではあるが、やはり柱と言うだけ並外れた力を持っているのだとたった数刻居ただけで気付かされる。
暫くの間冨岡の去っていった場所を見つめ続けるがはっとしてすぐに台所へ戻る月陽であった。
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