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自室へ戻りどうにかこうにか外出用の袴を取り出し袖を通す。
少しだけ、錆兎達と居た頃の自分を思い出した。

まだ、鬼殺隊になる前の俺だ。


「義勇さーん、準備出来ました!」

「あぁ、今行く」


深く考えこもうとした俺の耳に月陽の声が届いて顔を上げる。
声の方向からして玄関に居るのだろうと、そちらへ向かうと俺の長着と揃いの赤色の着物を着ていた。

振り向いた月陽もその事に気が付いたのか目を丸くしている。


「…お揃い、ですね」

「あぁ」

「何だか嬉しいような照れ臭いようなですけど、折角ですしこのまま行きましょうか」


化粧を施したのかいつもより華やかさの増した月陽がそっと腕に寄り添ってくれる。
そのまま玄関を出て街に向かう。

横を見れば嬉しそうにあれやこれやと話す月陽が露店を指差している。
俺はいつも通り言葉の合間に相槌を打ってその姿を見つめていた。

帯飾りを綺麗だの、髪飾りを可愛いだの彼女は言っているが俺は楽しそうにはしゃぐ月陽がどんな物よりどんな景色より綺麗で可愛いと思う。
たまには俺を見て欲しくて、そっと頬へ手を這わせ唇を奪った。


「ぎっ、義勇さん…?」

「たまには俺も見て欲しい」


その瞳を独占するのは綺麗なものでも可愛いものでもなく俺でありたいなど自分らしくは無い願いを口に出してみればみるみる内に頬を染めた永恋に目尻が下がる。

付き合うまでは少し抜けた真面目な奴なんだと思っていたが、共にいればいる程に感情豊かな月陽に知らず知らずの内に惹かれていた。
真っ直ぐな言葉に、真っ直ぐな瞳に囚われて気付いたときには誰にも渡したくないと手を伸ばした。


「後にも先にも俺の心をこんなに乱す人間は月陽だけなのだろう」

「あ、うあ…」

「困った女だ」


そっと細長く少しだけ硬くなっている月陽の指に口付ける。
何もかもが愛おしいなど、こんな感情知らなかった。

しかし突然向けられた殺意に邪魔され振り向くと、そこには誰も居らず楽しそうに街を歩く人々が居るだけで。


「義勇さん?」

「…いや。それより欲しい物は無いのか?」

「あ、そうそう!あの…私、義勇さんとお揃いの物が欲しくて」

「箸以外にか」

「はい」


もう買う物に目星は付けているのか、こっちですと俺の腕を引っ張る月陽の後をついて行く。
街を過ぎ、とある神社の前に着くと神主へ挨拶した月陽は何かを受け取っている。


「義勇さん!お待たせしました」

「何を貰ったんだ?」

「これです。天眼石と呼ばれるもので、魔除けの効果があるって聞きました」


大事そうに布に包まれた天眼石と呼ばれる石を、懐から取り出した小さな巾着へ入れ紐を通したそれを首に掛けてくれる。
俺の羽織の柄を模した巾着は邪魔になることも無く鎖骨の辺りで収まった。


「御守です。神社に来たのは清めてもらってたんですよ」

「…ありがとう」

「私もお揃いで作ったんです」


もう一つの巾着を取り出した月陽は俺と同じように首にぶら下げ微笑んだ。


「これから戦いも激化するかもしれない。必ずしも義勇さんと仕事に出れる訳じゃないから、離れている時にお揃いのものがあったら頑張れちゃうなって」

「…受けるのか。柱を」

「はい。今朝お館様から直々にお手紙を頂いたのです」


月陽が柱になるという事は目出度いがそれと同時に俺達が別々に行動する事が多くなるという事でもある。

そっとお守りに触れ複雑に絡まってしまいそうな感情をどうにか抑えた。
本当は駄目だと引き止めたいが、そんな事をすれば月陽にも、月陽に隊を引っ張る一柱になって欲しいと願うお館様にも申し訳が立たない。


「そうか…」

「でも私、義勇さんのお屋敷に住んでいたいのですが…それでもいいですか?」

「…いて、くれるのか」


てっきり出て行くのかと思った。
基本柱には一人一つの屋敷が与えられていると言うのに。

御守を握った俺の手を月陽の両手が包み、まるで祈るように、誓うように長いまつげを伏せた彼女は頷いた。


「お側に置いて下さい」


清らかな陽射しに包まれた月陽は柔らかく笑ってくれた。




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