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「さっきの男女二人を見逃そうとしましたね」

「…俺に、似ていたから」

「他の隊士の方に園内さんのお話を聞きました。兄のように分け隔てなく接して、努力を怠らない人だと。私のせいで、ごめんなさい」

「違う…俺が、弱かったんだ。実力だけじゃなく、心が」


切なそうに歪んだ永恋さんの頬を撫でる事も出来ない。
好きな女にこんな顔をさせてしまうなんて。
俺は何と愚かだったのだろうか。


「すみませんでした…本当にっ、悪かったから、頼むからそんな顔をしないでくれ…」

「園内」

「みず、ばしら…」

「今度こそ、強くなれ。心も、身体も」


俺を抱く永恋さんの隣に膝をついた水柱が声を掛けてくれた。
炎柱程の憧れはなかったが、男としてかっこいいななんて思っていた事を思い出す。


「はい…今度こそっ、俺…強くなって、また永恋さんに誠心誠意伝えに行きますっ…!」

「それがいい」

「園内さん…」

「すみ、ません…で、した」


そう言って俺の身体は消えた。
きっと人を食い殺した俺は地獄へ行くんだろう。

身体の無くなった俺は魂だけとなり、ゆっくりと立ち上がる二人を見送る。


『晋太』


優しく響いた声に振り向くと、そこには死んだはずの母ちゃんが後ろに立っていた。

何でとかどうしてだとか思う前に、俺はひれ伏した。


「ごめん!ごめん、母ちゃん!俺っ…俺、」

『大丈夫、大丈夫だよ。母ちゃんが側にいるから』


ボロボロ涙が出てきて、そんな俺の頭を母ちゃんが撫でてくれる。
久し振りに感じた母ちゃんの温もりに、更に涙が溢れて止まらない。

鬼となった俺を、永恋さんも水柱も罵ることなく正面からぶつかってくれていた。
いつの間にか人の温もりを忘れていた俺は、ただ私欲に走り関係のない人まで傷付けてしまった。


「母ちゃんは、ずっと側にいてくれたのか…」

『そうだよ』

「何で、誰も俺を叱らねぇんだ…どうして」

『罪を償いなさい。あの子達も私も審判者じゃない。きちんと、自分の意志で償わなきゃいけないから。自分の足で償っておいで』

「…あぁ、分かってる」

『母ちゃんも、ずっと側にいるから』


ひれ伏した俺の背中を撫でて、立ち上がらせてくれる。
地獄がどんな所かは分からないけど、どんな責苦を受けても償うと決めた俺はゆっくりと白い世界へ足を踏み出した。


「永恋さん…」


貴女が幸せになる事だけくらい、祈らせてくれ。

俺達とは正反対を歩いていく永恋さんの背中を一度だけ振り返って、再び前を向いた。

誰に向いてようが好きな女の笑顔がありゃ、きっと幸せなんだ。




end.
夢と言っていいのか分からないモブサイドのお話。



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