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それから俺は何度も何度も月陽に手紙を送ったし、直接水柱がいない時に顔を見に行った。
「月陽…今日も可愛い俺の、月陽」
「お、おい。園内お前最近おかしいぞ?」
「なんスか、村田さん。あんたも月陽を狙ってるんですか?」
「何言って…」
たまたま先輩の村田さんと任務に出た時月陽を見掛けた。
紺色の着物を着て楽しそうに笑っている。
近くに居るのは私服姿の音柱だ。
どうしていつも月陽の周りには男ばかりが群がるんだと思って自然と爪を噛む。
「お、おい」
「許さない。俺は許さない。そんな嫁が三人も居るふしだらな男と笑い合うなんて」
「…っおい、お前本当におかしいぞ。もう今日は帰れ」
「………村田さんも俺と月陽の邪魔をするんですね」
俺の肩を引っ張った村田さんを睨み付けると、視界に派手な色が目に入ってそっちを見たらさっきまで月陽と会話していた音柱が目の前にやってきていた。
「よぉ、随分と派手に言い争ってんじゃねぇか」
「おおおお音柱!?お疲れ様です!ほら、園内!」
「ってぇ。…お疲れ様です」
さっきまで親しげに月陽に触れていたこの男を睨み付けていると、村田さんに頭を押され強制的に頭を下げられた。
すると楽しそうに目を細めた音柱が俺の顔をのぞき込んでくる。
不愉快だ。
「なんつー顔してんだ?お前」
「ひーっ!すみません、こいつ元からこう言う顔でして!」
「お前に聞いてねぇ。おい、園内だっけ?男の嫉妬は醜いだけだぞ」
「俺の、月陽だ」
「っ、バカ!音柱に何て態度取ってんだ!」
挑発的な目をした音柱にそう告げてやる。
そうだ、あれは俺の女なんだ。お前如きが相手にしていい女じゃない。
そう言った瞬間目を丸くした音柱に言ってやったと内心ほくそ笑んでると、村田さんに頭を叩かれた。
「すみません、本当にすみません!こいつちょっと疲れてて…すぐに帰らせますんで!」
「…ほぉ。疲れというより病みの様だが、今回だけは礼儀のなってるこいつに免じて許してやる。次はねぇぞ」
「はいっ!寛大なお心遣いありがとうございます!それではっ!」
「ってぇな!村田さん、何すんだよ!」
「お前は自分の立場を弁えろ!」
月陽を追いたかったのに、意外と力強い村田さんに引っ張られながら俺はその場を後にした。
何で、どうして、どいつもこいつも俺と月陽の邪魔をするんだ。
邪魔だ、邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔。
苛立ちながら人混みに目をやると水柱と月陽の姿が目に入った。
水柱が月陽の髪に簪を差しているのを見て完全に力が抜けてしまった。
簪を贈られたのか。
あの水柱に。
あんな無口な奴にどうしてお前はそんな顔をしているんだ。
その瞬間、俺のすべてが壊れた音がした。
「…憎い」
「は?なんか言ったか?」
「いいえ。何でも」
次の日俺は非番の夜に一人で水柱の屋敷に向かった。
どうしてなんて決まっている。
月陽に会いに行く為だ。
きっと水柱に逆らえないからあんなもの貰ったんだ。
俺が助け出してやろう。
大丈夫だ、待ってろ。
今俺が行くから。
山を降りていると、俺の首から何かが貫通した。
息が出来なくなって、体が熱くなる。
「ガッ…ぁあっ…」
「人間のくせになかなか狂気めいた目をしているじゃないか」
「あ"ァッ…あづい…あ"づい"ぃっ!!」
「お前は人間でなくこちら側が向いているだろう。俺の血を分けてやる。そうすればお前の望む物が手に入るかもしれん」
喉が乾く。
身体全体が全て燃えているかのように熱い。
背後から俺の喉を刺した男の声がするのに今はそんな事に構ってる暇がなかった。
俺の視界は暗転して、身体は地面に放り投げられる。
「適応すれば、の話だがな」
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