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町を過ぎるまで私達は作戦を立てながら隣同士で歩き、小芭内さんが言っていた廃墟のある街道に出ると一瞬で姿を消し私は一人で夜道を歩く。
今の所目視でも何らかの存在は確認は出来ない。
人っ子一人居ない街道に、近くに小芭内さんが居るとしりつつも寒気がする。
鬼では無くお化けが出そうな感じだ。
「っ!」
ふと何かの気配がして顔を上げると少し遠い廃墟になった家の近くに人影が見える。
暗すぎて目には黒い影しか見えないがじっとこちらを見ている視線は分かった。
食い入るように私を見る目は月明かりに照らされて片目が大きく反射している。
きっとおこいさんの言っていた鬼だ。
着物の中に隠してある日輪刀をそっといつでも抜ける状態にしてソレに近付く。
「もし」
「………」
「もし。そこのお嬢さん」
「…何でしょうか」
近くまで行くと、片目が大きく見開かれた侍の姿をした鬼に話し掛けられた。
理性があると言う事はそれなりの鬼かもしれない。
地を這うような耳障りな声は何度も私に向けて言葉を発している。
「こんな夜道にお嬢さんお一人は危ないですよ」
「いえ、少し急いでおりますので…」
「もし良ければ家に泊まっていきなさい」
「結構です」
「ここから先は鬼が出ますよ」
ニタリ、と笑った鬼の歯は鋭利なのに浅黒く汚れていて思わず鳥肌が立った。
そろそろ頃合いだろうかと思った瞬間、小芭内さんが隠れた方から金属同士がぶつかり合った音が響く。
驚いてそちらに振り返ると、姿は見えないが小芭内さんの太刀筋が月明かりに照らされて反射している。
「それとも、」
「くっ…!」
「鬼が出る噂を聞いて駆け付けた鬼殺隊の人ですか?」
私のすぐ背後で響いた声に冷や汗をかきながら日輪刀を振り抜き後ろへ飛び退いた。
どういう事だ、鬼が結託するなど殆ど無いと言うのに何かしらの血鬼術かと目の前の鬼を睨みつける。
「あっちの鬼殺隊は人間を相手にしてるよ」
「人間?」
「日中、君達が絡まれて撃退した奴等だよ。勝手に俺の縄張りに入って報復したいとゴネていたからちょっとだけ力を貸しただけさ」
至極楽しそうな声に、昼間わざと私にぶつかってきた男を思い出す。
今の所人間を鬼にできるのは鬼舞辻無惨と珠世さんだけだ。
だからと言って目の前の鬼が鬼舞辻無惨であるわけが無い。そう確信している。
「何をしたの」
「快楽を教えてやっただけさ。人間は脆い。ちょっと気持ちいい事を教えてやったらすぐに涎垂らして強請ってくる」
「快楽…?」
「そうそう。こんな風に…」
「ひゃ!」
地面から生えてきた舌に太腿を舐められ、背筋に鳥肌が立つ。
一瞬チクリとしたのは何だったのだろうか、そう考える前に早く倒さなくてはいけないと本能が告げている。
「っ…」
「効いたかい?大丈夫、これはどんな痛みも快感に変わるから。気持ち良く死ねる」
「死ぬ事がっ、気持ちいい訳…ないだろ!」
足を踏み出した瞬間着物が太腿に擦れてぞくりと背中が粟立つ。
はしたないと分かりつつも、舐められた太腿側の着物をはだけさせ擦れないようにして刀を振る。
思うように力が入らない斬撃は鬼の舌を斬り落とせず軽い傷を付けただけだった。
向こうの方ではまだ刀のぶつかり合う音が止まない。
殺さないようにしているのだろうか、珍しく時間の掛かる小芭内さんに眉を寄せた。
「あっちの人間に何をしたの」
「脳みそを舐めてやったのさ」
「の、脳みそ!?」
「綺麗に切ってやれば脳みそが出た状態でも洗脳できちゃうんだよね。ふふ」
べろりと口の周りを舐めて悦に浸る鬼に寒気がして、もう一度その舌を斬ろうと試みる。
地面を貫通して土を掘ることの出来るあれは狂気だし、何より一舐めされただけでこれだ。
もう一度舐められると考えると鳥肌が立ち過ぎて皮膚が痒くなる。
「月の呼吸 拾ノ型、神無月」
月明かりを利用して刀を光らせ鬼の目を眩ませる。
暫くは目が見えない鬼に間合いを詰め頸を狙い、斬り落とす。
ぼとりと音がして頸が落ちたのを見計らい、舌を串刺しにした。
最後の足掻きなのか身体だけで私に向かってくるそれがバラバラに斬り落とされる。
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