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「ひ、広い…」

「前はね、たくさん孫が遊びに来てくれたからこれでも足りないくらいだったんですよ」


とりあえず買った着物に着替えた私達は、通された部屋に驚いていた。
一つの部屋に通されたのは間違いなく夫婦設定のせいだと思う。

小芭内さんは着流し姿で辺りを見回しているだけで何も突っ込んでこない。
さすがに義勇さんに申し訳ないと思いながらもう一つの部屋はないか聞こうとお婆さんの肩を叩こうとしたら思いっきり睨まれた。

前に貴方が異性をきちんと認識しろと言いませんでしたっけ。


「貴方達は鬼狩り様かい?」

「…ご存知なのか」

「私の孫や子供たちはね、鬼に食われたから」

「そう、だったんですか…」


寂しそうな顔をしたお婆さんに寄り添い背中を撫でる。
ふと首筋に大きな傷がある事に気が付いた。


「お婆さん、これひょっとして…」

「鬼に斬られたんだよ。奇跡的に一命は取り留めちゃったけどね。こんな老いぼれじゃなくて、孫達が助かれば良かったと何度思ったことか」

「その鬼は?」

「ここいらにまだ居るかもしれない。片目が大きく見開いた、男の鬼だった」


その時を思い出したのか身体を少しだけ震わせたお婆さんの背中に私と小芭内さんは目を合わせ頷く。


「すまないね。こんな変な話しちゃって」

「お婆さん、私達が力になります。見つけられるか分からないけれど」

「いいのかい、そんな…」

「鬼を狩るのが俺達の仕事だ。泊めて貰った礼もある」


すると私達の言葉にお婆さんが涙を流しながらその場に座り込み手をついた。
その行動にギョッとした私はつられて座り、肩に触れる。


「お婆さん、そんな事しないで」

「お願いします。この老い先短い人生、ずっと悔やんできたのです。どうか、どうか…子供や孫達の仇を…お願いいたします」

「承知した」

「お任せください!」


お婆さんの名前はおこいさんと言った。
小芭内さんが先に調べてくると言ったので私はおこいさんの掃除やご飯の用意を手伝う事にして、一間一間が大きな屋敷をお手伝いする。

私達がお借りした部屋以外の所は、真新しい畳と古い玩具や箪笥といった不釣り合いな様子で事件の残り香を感じた。


「酷い」


色々な部屋を練り歩いておこいさんのお子さんやお孫さん達を食ったのだろう。
不自然に綺麗な畳がその様子を物語っていた。

この屋敷でただ一人、憎しみと後悔にじっと耐えていたのだろうと思うと心が傷んだ。


「月陽ちゃん」

「おこいさん」

「そんな顔しなくていいんだよ。ありがとうね」


私の後ろに気配無く立っていたおこいさんは困ったように笑っていた。
その小さな身体を思わず抱き締めたくなって、両腕で抱き締めると何だか少し冷たい気がする。


「ふふ、ありがとう。人にこうしてもらうのは何年ぶりだろうか」

「おこいさん、身体冷えてますよ。少しお休みになったらどうですか?台所使わせていただけたらお食事も準備出来ますので」

「そうかい。なら、少し休もうかね」

「はい」


おこいさんの肩を支えながら、寝室であろう場所へ連れて行き出された炬燵に座らせる。
お風呂の準備や下拵えをしてしまおうとそっと部屋を出て、寂しそうな小さな背中を見た。


「月陽!月陽!」

「どぅわっ、かー君!びっくりしたよ…どうしたの?」

「義勇カラ手紙ダ」

「え、ほんと!」


いつの間にか台所に居たかー君が足に括り付けられた手紙を私に差し出してくれる。
しのぶさんとの任務は少し長引きそうだと言って出立した義勇さんから手紙が貰えるなんて思わなかった私は辺りを確認し、いそいそと紙を広げた。




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