1


「おおおおおお小芭内さん!!」

「動くな馬鹿者!折れるだろう!」


義勇さんがしのぶさんと指令に行っている間、私は小芭内さんと一緒に居た。
今私達は崖の幹に掴まっている状態である。
幹を掴んだ小芭内さんの腰に抱きつき、ぶら下がりながら崖下を見るとそこには深そうな川が。


「技を出して飛ぶか落ちるかしろ!お前がいると俺が何も出来ん!」

「落ちたら冷たいじゃないですかっ!」

「知るか!元はと言えばお前が鈍臭いのが悪い!」


言い争いをしてる間にも徐々に幹がミシミシと音を立てて折れそうになっている。
技を出すと言っても私は水の呼吸の持ち主では無いし、衝撃を緩和させるような技も持っていない。


「無理!無理です!」

「おい!おまっ…」


更に小芭内さんの身体に強く抱きついた瞬間バキッと嫌な音が響いて、宙に浮いた感覚に目が点になった。


「あぁぁぁぁー!!!」

「くそっ!」


浮遊する感覚から落ちていく感覚に大絶叫していると、小芭内さんに抱き寄せられ川の中へ落ちた。
身体を水に打ち付ける衝撃がそうでもなかったのはおそらく小芭内さんが庇ってくれたお陰なのだろうと思いながらも、激しい水流に飲み込まれそうになる。


「ぷはっ、ちょっ…もごっ」


必死に浮き上がろうと試みても水を含んだ服が重くて思うようにいかない。
酸素がそろそろ無くなろうとした時、強い力に引っ張られ水面へ顔が出せた。
そのまま小芭内さんに引っ張られ川岸に転がり出れば、ひんやりとした風が身体を撫でる。


「さっむい!」

「お前は…本当にっ、手間の掛かるっ…」

「ごめんなさい!」


余り身体の大きくない小芭内さんは珍しく肩で息をしながら私の頭を軽く引っ叩いた。
痛くないのは小芭内さんが力加減をきちんとしてくれている事はよく分かってる。

とりあえず濡れた羽織と上を脱いで水を絞ろうとすると、ふと小芭内さんの視線を感じた。


「お、小芭内さん?」

「何だ」

「いえ、その…あんまり見られると恥ずかしいと言いますか」

「そうか」

「義勇さんみたいな返事もちょっと辛い…小芭内さんもちゃんと絞っておいたほうがいいですよ?」

「煩い、お前は自分の心配でもしておけ」


機嫌が悪いのか何なのかこれ以上話し掛けても更に悪化しそうだったから、こちらを見ている小芭内さんに背を向けて衣類の水を絞る。
ふと背後から砂利を踏む音がして小芭内さんだろうかと振り返ろうとした時、シャツを引っ張られ後ろに仰け反った。


「ちょおっ!?小芭内さんこの体勢凄く痛い!」

「随分と愛されているんだな」

「へ?」

「ここにも、あぁ。ここにもだ。独占欲の塊じゃないか」


私の首筋や、背中にある義勇さんの証を指でなぞりながら1つ2つと数える小芭内さんの低い声にゾクリと背中に痺れが走る。

皆お館様に継いでいい声の呼吸でも持っているのかと言いたくなった。
女性のしのぶさんや蜜璃さんも素敵な声だし。


「や、小芭内さん」

「新しいのから古いのまで、何個付けられたんだ?あの時とは比べ物にならん数だ」

「し、知りませんよ…っ」


思わず変な声が出そうになって、両手で口を塞ぐ。
この触り方はあえてなのか、単純に蛇柱だから這うような触り方なのか分からないけれどとても心臓に悪い。


「…さっさと服を着ろ。街へ行って代わりのものを買う」


ふと私から離れた小芭内さんは顔を逸らして自分の服を絞り始めている。
あんたが邪魔したんだぞと言いたいけれど、助けてもらった手前どうも言いづらかった私は渋々もう一度隊服と羽織を着ることにした。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -