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「珠世さん、月陽です!お久しぶりです!」
「聞こえていますよ。久し振りですね」
向こうで愈史郎君が私に対して何かを言っているようだけど、久し振りに聞いた珠世さんの声に感動しながら耳を寄せる。
母のように私の名を呼び育ててくれた珠世さんの声はお館様のように安心させてくれた。
少しでも脳に焼き付けようとそっと目を閉じて珠世さんの声に耳を傾け、話を聞く。
「月の呼吸を会得していると聞いた時点でまさかとは思っていましたが、まさかあちらに月陽の存在が知られているとは」
「仕方の無い事です。鬼殺隊にいればきっと遅かれ早かれ知られていたでしょう」
「…黒死牟には気を付けて。あれは何百年という長い間を鬼舞辻無惨の側で生き続けた鬼です。今のあなたでは叶わないでしょう」
「はい」
「愈史郎もあぁは言いましたが、月陽を心配しての事。無理をしてはいけませんよ」
心配そうな声に私は力強く頷く。
いつも珠世さんには心配を掛けてばかりで申し訳ない。
「それと、冨岡さんと言う方についてなのですがどういう方なの?」
「へ!?」
「将来を誓いあったのでしょう?今度そのお話も聞かせてね。本当は会ってお話してみたいけれど、鬼殺隊の方でしょうから月陽の口から教えてね」
先程とは変わってとても楽しそうな珠世さんの声に私もつられて微笑む。
この人たちに出会えて良かった、そう思った時背後から気配がした。
「月陽」
「へ!あ、義勇さん!?」
「この声は、どこから…」
「月陽?」
珠世さんの声に義勇さんがピタリと立ち止まり、手紙を凝視している。
どうしようと思ったその時だった。
「…貴女が、月陽の母親か」
「貴方は?」
「冨岡、義勇と言います」
「月陽何故お前はちゃんと周りを見ないんだ!」
「うっ、愈史郎君ごめんなさい!でも義勇さんは」
「珠世と申します。貴方が月陽のお付き合いしてる方ですか」
「珠世様!?」
まさか義勇さんが部屋に入ってくると思わなくて、そっと隣に腰を下ろされ驚いた。
珠世さんも珠世さんで冷静に名乗ってるし。
私と愈史郎君だけが慌てていた。
「はい。月陽とお付き合いさせていただいてます」
「随分と冷静なんですね。これがどういう術かご存知なのでしょう」
「…貴女達がどのような存在でも、月陽をここまで育ててくれた事に変わりはない」
「随分と信用してくれてるんですね、月陽の事を」
「勿論です」
驚いて絶句する私達を置いて二人は淡々と話を進めていて、頭が追いつかない。
確かに私は義勇さんに珠世さんたちの存在を話しては居たけど余りに普通過ぎてやばい。
逆に私の語録力が無くなる。
「とても素敵な方のようで安心しました。ねぇ、愈史郎」
「たっ、珠世様!この様に気さくに男と話すなど…!」
「いいではないですか。月陽の将来の旦那様なのでしょう。会えはしないけれどお声だけでも聞けて良かったわ」
ジリ、と紙が音を立て始めて血鬼術が解けだす。
愈史郎君の集中力が途絶えたんだろう。
「あ、珠世さん」
「会えずとも貴女達には礼を言いたかった。月陽を育ててくれてありがとう」
「…っ、お前!月陽を泣かせたら連れ戻しに行くからな!」
「ほらほら、愈史郎。こちらこそ、冨岡さんの様な方が月陽に出会ってくれて安心しました。ありがとう」
ゆっくりと燃えていく紙に、目の前でやり取りされる三人の会話に胸が熱くなる。
「月陽、何かあったならその箱に手紙を入れてください。私達の元へ届く様になっています」
「は、はいっ!」
「元気にやるのですよ。冨岡さんも、どうかよろしくお願いします」
「おいっ!怪我させるなよ!」
「あぁ」
「あっ、愈史郎君!珠世さん!またっ!」
そこまでで手紙が燃えつきた。
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