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先に待っていた三人に謝りながら義勇さんの席に付く。
蜜璃さんやしのぶさんが話し掛けてくれても、どこかで愈史郎君から貰った手紙の事を考えてしまってせっかく楽しい食事をどこか上の空で過ごしてしまった。
「月陽ちゃん大丈夫かしら?」
「え、あっ!すみません、ちょっと考え事をしてしまって」
「冨岡さん、ちゃんと月陽さんの事休ませてあげていますか?余り自分の欲ばかり優先すると嫌われますよ」
「俺は嫌われない」
「その絶対的な自信はどこから来るんでしょうね、ほんとに」
「ふふ、それだけ二人が仲良いってことよね!素敵な事だわ」
私の態度を責めもせず、楽しく笑って流してくれる三人に申し訳ないと心の中で反省する。
折角お誘い頂いたのだからここはいつも通り過ごさなくてはと、思考を切り替えた。
それからはいつも通り楽しくお話して、夕方になる前に解散をする。
「それじゃあまたね、月陽ちゃん、冨岡さん」
「私達はこれから仕事がありますのでここで失礼します」
「はい、ありがとうございました!お二人ともお気を付けて」
お仕事のある二人は合同なのか手を振って同じ方向へと向かっていったのを義勇さんと一緒に見送り、姿が見えなくなった頃私達も屋敷へ帰る為に踵を返す。
「何か、あったのか」
「手紙のことですか?いえ、まだ私もきちんと読めていないので屋敷に帰ってからもう一度読もうと思って」
「なら今日は俺が家事をやる」
「えっ、悪いです!」
「いい。お前の大切な家族なのだろう」
きっと手紙の内容を気になっているだろう義勇さんはあえてそれを口に出さず、更には気を使ってくれた。
きっと見せてあげられない内容ではないのだけど、これは私だけの問題ではないから考えないといけない。
「…義勇さん、気を使わせてしまってごめんなさい」
「いい。家族から届いた手紙の内容を聞くなど野暮な事くらい俺も分かっている」
「ありがとうございます」
気遣いが嬉しくて、そっと義勇さんの腕に絡みつく。
珍しい私の行動に驚いたような顔をされたけど、ご機嫌取りではなく義勇さんの信頼してくれる気持ちに返せる今の精一杯なんだ。
「ただし、もし月陽の身に何か関わるようなことがあった場合それくらいは教えてくれ」
「はい、ありがとうございます」
それきり義勇さんは手紙の事を話すことなく薄く微笑んで私の頭を優しく撫でてくれた。
それからは柱合会議で私が宇髄様とお話した事や、義勇さんがしのぶさんたちに質問攻めされた事の話をしながら帰路に着いた。
家に着いた後、私は自室へ入りもう一度愈史郎君からの手紙を開く。
そこには継国縁壱と継国厳勝について書かれていた。
この文字はきっと珠世さんの物だろう。
「…こんな事があっていいの」
黒死牟という上弦の壱は鬼殺隊最も最強と謳われる剣士、継国縁壱と言う人の兄であり元々人間だった頃同じ様にして鬼殺隊に入っていたと言う。
だから呼吸が使えるのかと思った。
そして私が黒死牟と別の月の呼吸を使う理由は、兄が鬼と化した事を悲しんだ弟によって内容は違えど人が使える同じ呼吸を生み出したという。
私は黒死牟を倒す為の呼吸を会得していると言うわけなのだろうか。
珠世さんは鬼舞辻に付き従っていた時代があったという。
何らかの理由によってその呪縛から逃れた珠世さんは、今こうして人を助ける鬼となったと聞いた。
「ここまでの機密事項を私が知っていいのかな」
「お前だからこそだ」
「うっ、わ…愈史郎君!」
「返事が遅い」
文字が突然動き出して、愈史郎君の血鬼術の形に変えたと思ったらそこから不機嫌な声が聞こえた。
義勇さんはお風呂の準備をしてくれると言っていたし、愈史郎君たちの存在を教えたとはいえここまであからさまな血鬼術を見せるのはちょっと如何なものだろうと声を潜めて紙に話しかける。
「珠世様からの情報を他の者にはバラすな。もしこれが鬼側に伝わって狙われたとなれば如何にお前だろうと許さん」
「うん、分かってるよ」
「ならいい」
「愈史郎、月陽にそんな事言ってはいけませんよ」
愈史郎君の怖い声に続いて聞こえた優しい声に私は目を大きくした。
この声は、珠世さんだ。
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