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「先程の兄妹の事も、月陽を育てた女性の存在も今は誰にも言うつもりはない」

「はい」

「母親代わりの女性の件は俺が言う事は絶対にない。信じてほしい」

「も、勿論ですよ!でも、ごめんなさい」


こうして優しく受け止めてくれるからこそ、今まで黙っていた罪悪感に押し潰されそうになる。
あの人達を守るためとは言え、義勇さんに黙っていたのだから。


「事情が事情だ。おいそれと話していい内容ではない。だからそう悲しまなくていい」

「…はい」

「だが、よく話してくれた」


やっと震えの止まった手を握り、義勇さんは自分の額と私の額をくっつけた。
触れ合ったそこから、まるで熱が伝わるかのように心が温まる。

義勇さんと付き合えた私は、なんて幸せなんだろうか。
こんなに懐の深く、素敵な男性はそう居ない。

そんな人に想いを寄せられ、こうして想い合う事が出来たのだからもしかしたら人生で一番の運を使ってしまったんじゃないか。


「ありがとうございます、義勇さん」

「あぁ」

「私、貴方の恋人で本当に良かった」


少しでもこの気持ちが伝わるよう目を閉じて祈った。
何やかんやと始まったこの恋は、きっと死ぬまで育んで行くのだと信じて止まない。

なかなか恥ずかしくて表現が出来ない私だけれど、共に生きていくこの中で義勇さんが喜ぶような事が出来るようになれたらいいな。


「身体が冷える。帰るぞ」

「はい!」


指を絡ませ家に向かって歩き出す。
ここ最近はずっと外泊続きだったから、早く義勇さんの屋敷に帰りたい。

久し振りに蜜璃さんやしのぶさんにもお会いしてお話したいと思う。


「今日はお互い色々なことを更に知った気がします」

「…見ていたんだな」

「えぇ、静かだったのでよく響いてました」

「そうか」


あんな風に感情を顕にする事なんて余程あの少年に思う事があったのだろうなとは思う。
すると、前を向いたまま義勇さんはぽつりぽつりと話しだした。


「こう言っては怒られるかもしれないが、俺は本来ここにいるべき人間では無かった」

「……どうしてそう思うんですか」

「俺には唯一の友が居た。錆兎は…錆兎が、本来なら水柱になるはずだった」

「錆兎さん?」

「最終選別で他の者を、俺を守り死んだ」


そう言った義勇さんの顔は無表情だったものの、声色はとても悲しそうだった。
まだ詳しくは聞いていないけれど、義勇さんの異常なまでの後ろ向きな考えは錆兎さんと言う人の死から来ているものなんだろうと言う事だけは理解出来た。


「…姉さんも、俺を守って死んだ。皆、俺が大切と思っていた者は」

「でも、私は生きてますよ!」

「あぁ…だから、月陽は死ぬな。もうこれ以上、失いたくは無い」


立ち止まって声を上げた私にやっと振り向いてくれた義勇さんは、何だかいつもと違っていた。
いつもは無口ながらも強かに佇む姿がとても印象的だったはずなのに、今は儚く消えてしまいそうな程に頼りない。

消えてほしくなくて、そんな顔をして欲しくなくて握った手に力を込める。


「約束、もう忘れましたか?誓ったじゃないですか。互いに死ぬ事も離れる事もしないって」

「覚えている」

「なら…私を信じて。少なくとも私は、貴方と出逢えて本当に良かったと心から思っています」


義勇さんの頬を伝った雫を空いた手で拭い、そっと伏せた瞼に背伸びをして口づけを落とした。




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