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それから少しして少年は目を覚し、私達の姿を見ると涙目のまま妹を守るように抱き起こした。
もう手を出すつもりもない私達は少し離れた所から少年に声を掛ける。


「大丈夫、もう私達は攻撃するつもりはないよ」

「…狭霧山の麓に住んでいる鱗滝左近次という老人を訪ねろ。冨岡義勇に言われて来たと言え」

「今は太陽が出ていないからいいけれど、妹さんを太陽の元に連れ出しちゃいけないよ。それじゃあね」


唖然としたまま私達を見つめる少年とまだ眠ったままの少女を置いてその場を後にした。

義勇さんはそのまま山を下っていく。
それに付き従い私も速度を上げ、何も話さないままの義勇さんを追い掛ける。


「…義勇さん」

「お前は、俺を甘いと言うか?」

「そんな事ないです。あの子は他の鬼と違う。そういう鬼を…私は知っていますから」

「どういう事だ?」


走りながら会話をしていた私の言葉に義勇さんの足が止まる。
当たり前だろう。あんな例普段なら見る事はないのだから。
それを知っているなんて言った私に驚くのは当然の反応だと思う。


「…私は、両親が殺された後一人でただ死を待っていました。行く宛もない、お金もない私なんて精々死を待つだけの無力な子どもでしたから」


義勇さんになら、話してもいいかと少しずつ自分の幼少期について話した。
震える手が緊張からなのか、寒さからなのかは分からない。

隠し続けていた事実にもしかしたら義勇さんに拒絶されてしまう可能性だってある。
それでも、さっきの兄妹を見逃してあげた義勇さんならば受け止めてくれるかもしれないと思った。
受け止めて欲しいと思った。


「燃え尽きた家の跡地でただひたすらに死を待っていた私を拾ってくれた人は、鬼でした。とても儚くて、とても美しい人」

「鬼を、人と呼ぶのか」

「えぇ。あの人は身体が鬼であったとしても心はとても人間らしい、慈愛に満ちた人です。それに、私にとって二人目の母親ですから」


珠世様は美しい、何度も愈史郎君が言っているけれど私もそう思う。
見た目だけではないのだ、あの人の美しさは。


「鬼が人の子を育てる…だと」

「現に私はこうして生きています。きっと、お館様も口にはしないだけで私がどうやって生きてきたかご存知なのでしょう」

「なぜ、言わなかった」

「私の一存で、あの人達を危険に晒すことは出来ません。例え何かでバレてしまい裏切り者と罵られ、断罪されようと私は絶対に口を割らないつもりで居ましたから」


義勇さんの視線や言葉が冷たく感じてしまう。
もしかしたらいつも通りに話してくれているのかもしれないけれど、隠し続けていた後ろめたさにどうしても後ろ向きな思考に囚われる。

今の私は珠世さんたちの居場所は知らないし、何を聞かれても答えるつもりがないのは勿論、答えられないのだけれど。


「嫌いになってしまいましたか?」

「嫌いになどなるものか。お前を、どれだけ俺が愛していると思っている」

「っ、」


羽織を握りしめ徐々に俯いた私と距離を詰めた義勇さんが腕を引っ張り抱き締めてくれる。
頭ごと抱き抱えられてしまっているから、義勇さんの表情は分からないけれど話し方も離さないという程の力もいつも通りで涙は出ないけれど泣きそうになった。


「問い詰めるような聞き方をしてすまない」

「いいえ、いいえ…っ」

「こうして人を守る為に生きるお前を育てたその女性はとても立派な母親だと、俺は思う」

「義勇さん…」

「実の母上や父上だけでなく、その女性にも愛された上で今の月陽があるのだろう。機会があるのなら、いつか礼でもしたいくらいだ」


そう言った義勇さんの声はとても穏やかなのに、少しだけ悲しみが混じっていた気がする。
それでも、珠世さんの存在を受け入れてくれた事がとても嬉しかった。





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