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あの後、昼に義勇さんの鎹鴉が私達に伝令を伝えに来た。
元より任務予定地であった所ではなく雲取山にて、鬼が出たから急ぎ向かってほしいとの司令だった。
元々の予定地へは近くに居た違う柱が向かってくれると言うので予定を変更し、鬼が出たという場所の地図を確認する。

私達は急いで身支度をして目的地へ走り出すが、ここから少し離れている為そこに着くまでにはまだ時間は掛かる。


「間に合うでしょうか」

「今は走る事だけを考えろ」

「はい」


何だか嫌な予感がする。
結局走り続けて雪の降り積もる雲取山へ着いたのは夜が明けた早朝だった。

厚い雲に覆われた山は薄暗く、太陽も差していない。

私と義勇さんは山中にあった一軒家の目の前に立ち尽くす。
間に合わなかった。


「こんなに、小さい子達が…」

「月陽、この場の様子を見てきてくれ。俺はこの足跡を追う」

「分かりました。探索した後私も義勇さんの所へ行きます」


空を飛んでいたかー君を呼び、上空から何かないか確認してほしい事を伝える。
すぐに飛び立ったかー君を見て、義勇さんも私に背中を向ける。


「太陽が出ていない。気を付けろ」

「はい。義勇さんもお気を付けて」


走り出した義勇さんの背を見送り、彼が辿ったであろう足跡を見る。
仮にこれが鬼化した人の足跡だろうがきっと義勇さんなら大丈夫と、遺体の積み重なった家へ入り手を合わせ上がらせてもらった。

幼い子どもと、母親らしき女性は既に事切れており惨状を物語るような部屋の中を見渡す。


「…可哀想に」


そっと小さな身体を抱き上げ、横一列に並べてあげる。
一部欠損はしてしまっているけれど、あのまま放置しておくには余りに惨すぎて見ていられなかった。

ひとりひとりの目を閉じてあげ、近くにあった家族で使用していたらしき布団を掛ける。

遺品などは隠に任せればいい。
私は懐から手拭いを取り出して雪で濡らすと、子供たちの顔を丁寧に拭う。

可愛らしい子どもたちだ。
父親は居ないようだけれど、きっとそれでも家族で支え合い生きてきたのだろう。


「ごめんね」


誰に言うでもなく呟いた。
勿論その答えに返事は無いし、私も何か返してほしいと思ってはいない。

先程義勇さんが追い掛けた足跡が、鬼では無く生存者でありますようにと祈る。

遺体を運んだ私の体は血に濡れてしまったが、これくらいなんてこと無かった。
犠牲者達が少しでも心安らかに天国へ行けるよう、私は祈る事と戦う事しか出来ない。

その中で血を見るのも慣れてしまった。

きっと義勇さんも許してくれるだろうと思う。
念の為部屋の中を探索し、不審な点は無いか探したけれど特に荒らされた様子もなく取られたものも無さそうだ。


「どうか、安らかに眠ってね。貴方達の仇は私達が取るから」


物言わぬ抜け殻となってしまった家族達にそう告げて家を出た。




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