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藤の家に着いた私達は、お願いした通り鮭大根を出してくれた朝食を戴いて用意されたお風呂をお借りした。

羽織と隊服も洗っておいてくれると言った藤の家の方に甘えて、代わりに用意してくれた浴衣へ袖を通す。


「お風呂入ったから余計に眠い…」

「なら寝ればいい」

「義勇さんは寝ないんですか?」

「いや、寝る」


ついさっきまで刀の手入れをしていた義勇さんは二組敷かれた布団の私が陣取る所へ無理矢理入って来る。
義勇さんが幾ら細身といえどやはり狭いものは狭いのでどうか隣に行ってくれないかと目で訴えたものの、当たり前のように無視された。


「今日はしませんよ」

「それでもいい」

「それでもとは」


腰を引かれ、私の首下へ腕を差し込んだ義勇さんに抱き締められる。
何だか付き合う前を思い出して、ちょっとだけ口元が緩んでしまった。

義勇さんは私をいつまでも初々しいと言うけれど、これでも少しは慣れたほうなんですよなんて心の中で話し掛ける。

顔が近くにあるだけでまだ胸はドキドキするけれど、最近は寄り添う事も出来るようになったんだから。


「義勇さん」

「なんだ」

「早く鬼なんて居なくなればいいのにね」


そうしたら、私達は何をするんだろうか。
刀を振るうことだけに力を注いできた私達に、平和になったこの時代に何が出来るんだろうと思う。

頭を義勇さんの胸板に押し付けながら鬼の居なくなったときの事を考える。


「そうだな…とりあえず祝言を挙げるか」

「え、誰と?」

「お前以外誰が居ると言うんだ」

「わ、わたし…」


少し呆れたような掠れた声で私を見やる義勇さんは頭頂部に口付ける。
祝言なんて考えてもみなかったのに、義勇さんはそこまで考えていてくれたのだと思うと凄く嬉しくなった。


「俺の仕事が見つかったら子を授かって、平和に暮らしたい」

「子ども…いいですね」

「出来るのなら月陽に似た女の子だといい」

「じゃあ男の子は義勇さん似で」


珍しく流暢に話す義勇さんはいつも通り真顔だけど、凄く楽しそうだった。
それにつられて私も未来を想像して、まだ何もない自分のお腹を優しく撫でる。

いつか、ここに義勇さんの子を授かれる時が来るのだろうか。


「凄く、幸せですね」

「実現させよう」

「はい」

「だから、それまで互いに死ぬ事も離れる事も許さない」


他の人からしたらきっと重い言葉なのかもしれないけれど、私にとってはとても素敵な言葉に聞こえた。
義勇さんは基本無口だけれど、約束した時は必ずそれを果たしてくれる事を知っている。

だから私の死も離れる事も許さない反面、義勇さんも死ぬ事も私から離れる事も無いってこと。


「大好きです、義勇さん」

「俺は愛している」

「そういう時は鸚鵡返しくらいして下さい。でも…凄く、嬉しいです」


この人から伝わる愛情はとても真っ直ぐで、心地がいい。
恋なんてした事なかった私達は、ゆっくりかもしれないけれど恋人としてこの愛をちゃんと育んでいけている。
それがどれだけ貴重で大切な事か、ここ最近更に思い知る日々だ。


「っ、ん…」


顎を掬われ義勇さんの方に向けられれば優しい口付けの降り注ぐ。
今日はしたくないなんて言ってしまったけど、結局私は義勇さんを受け入れてしまうんだろう。

これだけの愛情を注がれて、拒否出来る女など居るのだろうか。


「…いいか?」

「聞かないでください…」

「なら聞かない」


口付けながら私の首から腕を抜いた義勇さんに見下され、恥ずかしさに顔を背ける。
いつか、こうしていても罪悪感のない世の中にしたいと心に誓って義勇さんの愛に溺れた。



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