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「助かりました…!」


納刀した私達に駆け寄ってくる隊士たちに眉を下げた。
折角救援に来たのに結局犠牲者は出してしまったから、何だか申し訳無い。

そんな事を思っていたら、義勇さんにはバレていたのか頭をぽんっと撫でられた。


「義勇さん」

「やれる事はやった」

「…はい」


何気ない気遣いがとても嬉しい。
正当化するつもりで言ってるわけではないけど、私達がやれる事はやったのだ。

全てを守れるほど私達は万能じゃない。

今はこうして礼を言ってくれた隊士達を気遣ってあげるのも私達上の責任だからと微笑みかけた。


「みなさんもお疲れ様です。負傷者は傷の浅い者が面倒を見てあげて下さい。私達は持ち場に戻るので、後は任せます」

「はい!」

「行くぞ」

「あっ、義勇さん待って下さい!」


隊士たちに背を向けて歩き始めてしまった義勇さんの背中を追う私の後ろで密やかに囁かれる声に気づく事なく走り出す。


「おい、永恋さんと水柱ってさ…」

「絶対付き合ってるよな」

「まじかよ、俺の心の恋人が」

「水柱やるなぁ」

「冨岡さんて色恋沙汰に興味ないかと思ってたわ」


なんて会話がされているとは思わない私はちらりと背後を見た義勇さんに首を傾げる。


「お、お疲れ様でした!!」

「ん?何か様子が変じゃないですか?」

「さあな」


義勇さんは頭を下げた隊士たちに今度こそ振り返る事なく隣を歩いている私の手を取った。
人前でこういうことはしないでと何度も言ってるはずなのに、義勇さんはたまに周りへ見せつけるような行動を取る。


「あの、義勇さん」

「休息中だ」

「うーん…」


私の言いたいことが分かったのか、離すつもりはないと力強く握られてしまえば続く言葉が詰まってしまう。
結局の所私も義勇さんに触れていたいと思っているから折れてしまうんだ。


「そろそろ朝になりますし、本来の任務は明日になりそうですね」

「なら藤の家に一度帰るか」

「そうしましょうか」


薄っすらと辺りが明るくなって来たと言う事は鬼は潜んでしまっただろう。
長引いてしまった任務にちょっとだけ肩を落とすと義勇さんが私を見ていた。


「どうかしましたか?」

「…随分と人気があるんだな」

「人気?なんの事ですか?」


義勇さんの言葉の意味が汲み取れなくて首を傾げると、繋いでいた手が引っ張られ急な口づけをされた。
余りにいきなりで固まってしまっていると、顔を離した義勇さんが息で笑った気がして我に返る。


「ちょ、ちょっ!だから、もうっ…!」

「いつになっても慣れないんだな」

「慣れないですよ。だって義勇さんとこういう事する時はいつもドキドキしちゃうんです」

「愛らしいな」


私の反応が楽しいのか、もう一度軽く唇を吸われて再び義勇さんが歩き出す。
本当にこの人は読めないなと思いながらも心の片隅で喜んでる自分がいる事にため息をついた。


「不服か?」

「いいえ。内心とっても喜んでる自分を律しているだけです」

「そうか」


私が言ってる意味が分からなかったのか義勇さんは首を傾げながらも頷いてくれた。
こうして結局許してしまうのだから恋というのは恐ろしい。 


「今日の朝ご飯は何でしょうね」

「鮭大根だといい」

「あ、でも私昨日希望しておきましたよ」

「!」

「ふふ。あるといいですね」


なんてこと無い会話をしながらさっきまで血の香りが漂っていた森を抜け一度振り返る。
義勇さんと繋いでいた手を離して、両手を合わせ犠牲者の魂に祈りを捧げた。

どうか、安らかに。

少しの間黙祷を捧げると、私の腰を抱き寄せた義勇さんが森を見つめている。


「行くか」

「はい」


私は泣いてあげられない。だからせめて黙祷を捧げる。
義勇さんは手は合わせないけれど、何かを決意したような瞳で森を見ていたから彼らの分をただ背負ってこれからも鬼を倒す為の力に変えていくんだろう。

祈る者もいれば、泣く者だっている。
そのどちらでもない者は心に誓う人だっている。
それぞれがそれぞれのやり方で犠牲になった人達の意思を継いでいくんだ。


「義勇さん、もし鮭大根出たら少しだけあげますね」

「いいのか」

「はい。ちょっと眠くて」

「背負ってやる」

「大丈夫です!」


ゆっくりと陽射しが差し込み始めた空に私達の影が寄り添い、元々宿泊予定だった藤の家へ向かった。



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