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冨岡様のお返事を待ってどれくらいの時が経ったのか。
少し足がムズムズしてきたのは気のせいと思いたい。


「あの、冨岡様?」


失礼も承知の上で催促するように名前を呼んでみた。
依然冨岡様の視線は私をまっすぐ見ていて、何だか気恥ずかしい気持ちだ。


「…断る」

「で、ですよね…」

「と言いたいところだが、お館様から直々の命令とあらば俺に断る権利はない」
 

一瞬断られたかに見えたが、嫌々ながらも冨岡様は首を縦に振ってくださった。

継子を取らない、柱稽古にも参加されない冨岡様がまさか私が暫く共に任に着くことを了承していただけるとは。

嫌々だとしても嬉しい。
私は、父から受け継いだこの呼吸を完成させられるのであればどんな事だってすると誓ってここまで生きてきたんだ。


「ありがとうございます、冨岡様!」

「……」

「これからよろしくお願い致します」

「………」


頭を勢い良く下げてもう一度冨岡様の顔を見れば、何とも言えないような顔をしている。
変な事をして来た自覚はあるが、今はそんな顔をされるような事はしていないはず。

何と言うか冨岡様は口で語るというより視線で語るのだろうか。

見つめ返してみたが凛々しい眉が少し寄っただけだった。


「何でしょうか、冨岡様」

「…その様というのをやめろ」

「えっ、いや…しかし」

「なら断る」


さっき受けてくれるって言ったじゃん!!
という突っ込みを何とか飲み込み代わりにえぇ…という声が出た。
一方冨岡様は意見を曲げる気がないのか顔をぷいっと横にそらしたまま、また一言も話さなくなってしまった。


「…柱の方々には最大の敬意を表すため、様付けで呼んでいる者は私以外にも沢山おりますよ」

「……」

「では…と、冨岡さんでどうですか」


柱をさん付けなんて馴れ馴れしく無いだろうか。
内心どんな呼び方なら良かったのか分からず顔色を伺えば彼は黙って頷いた。



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