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目をぱちりと開けると、傷だらけのはだけた胸板に綺麗な白い髪。
大きく開かれた瞳に長いまつげ。


「し、不死川様」


風柱の不死川様だった。
彼は私を怪訝そうな目で見つめてのぞき込んでいる。
柱合会議以来だから気まずいけど、早く立ち上がらなきゃ。


「すみません、こんな格好を…」

「アァ?別に構わねェよ。ンなことより何してんだァ」

「あ、いえ…」

「まどろっこしいのは嫌いなんだよ。さっさと答えろォ」

「はい、正直かなりヘコんだのでここで拗ねてました」


抜いた日輪刀を私に突き付けたので正直に答えた。
勿論義勇さんの事だなんて言わなかったけど。

正直に言ったことが分かったのか鼻を鳴らして日輪刀をしまってくれた不死川様を見つめる。
きっとくだらないと言ってさっさと立ち去ってくれるだろう。


「……あの、不死川様?」

「あンだよ。さっさとその凹んだ理由ってのを話せェ」

「え?」

「…テメーにゃ柱合会議でキツく言い過ぎた。女の割には肝も据わってやがるし、上弦の壱を前に一撃食らわして帰ってきたらしいじゃねぇか。そういう根性ある奴は嫌いじゃねェ」


ぽむぽむ隣を叩いた不死川様にちょっと顔が引き攣ってしまう。
いいんだ、見直してくれた事はとても嬉しいしありがたい事だと思ってる。
だけどこの手の内容を不死川様にするって言うのは全力で気が引ける。

どう考えてもへこんでるどころじゃない。


「そ、それは有り難いのですが…流石に色恋沙汰の事で柱の時間を割いてまでご相談するのはさすがに」

「男の気持ちなんか女のテメェに分かんねぇだろォが。俺が答えてやるって言ってんだよ」

「あ、あはは。お優しいですね」


間違いはない。間違いはないのだけど、今の私にとってとてもありがた迷惑である。
その気持ちだけ有難く受け取って帰ることは出来ないだろうか。

でも非常にしっかり腰を下ろしていらっしゃるし、これは逃げられなさそうだ。


「で、何をテメーはヘコんでる」

「…無礼だと斬らないでくださいよ?」

「ア?斬るわけねェだろ」

「言いましたからね。あの、不死川様は吉原の経験はありますか」


渋々隣に腰を下ろした私は膝を抱えて、正面を見ながら質問してみる。
質問内容に驚いたのか怒ったのか不死川様が大きな目を血走らせて私を見ているけど、あえて振り向かない。
怖いもん。


「いや、やっぱりそこの有無は答えなくていいんですが…恋仲が居るのに、そこへ行く意味は何なのでしょうか」

「…そういう事かよ」

「でも、私が待たせすぎてしまったのは理解しているんです。長い間、我慢させてしまったから何も言えなかった」


須寿音さんの後ろを歩いていた義勇さんを思い出して更に膝を深く抱える。
私のこんな傷のある身体より、須寿音さんのような柔らかい身体のがいいとは思う。

普通の女性を前にして私が勝るところなんか無いなんてのは分かってるから、だから悲しい。


「…オメェよ、その男には問い詰めたのかよ」

「問い詰めたって仕方ないですよ。だって私が悪いんですから」

「そりゃ悪いだろォな。男の話も聞かねェで飛び出してきたってんならよ」

「どうして、それを」


ハァ、とため息をつきながら頬を手で抑えた不死川様に驚いた。
そうだ、その通りなんだ。私は義勇さんの言葉も聞かずに飛び出してきてしまった。


「ンな姿で拗ねてンだからちゃんと話し合いなんか出来てる訳ねェだろ」

「……凄いですね、不死川様は」

「俺は長男だからな、下の弟や妹共が喧嘩してよくそうしてンの見てただけだァ」

「へぇー、何だか不死川様良いお兄さんしてそうですもんね」

「…そんな事よりテメェの事考えろォ」

「うん、不死川様のお陰でへこみが修復された気がします」

「アァ?」

「ちゃんと話し合わなきゃ、駄目ですよね」


寂しそうな雰囲気のした不死川様に違和感を覚えたけど、きっと余り突っ込まないほうがいいのだろうと何となく思った。
兄弟の話をしてくれた時の不死川様は凄く辛そうだったから。

兎に角義勇さんときちんと話さなくちゃ。


「ハッ、良い顔になったじゃねェか」

「不死川様のお陰です」

「そーかよ。ならさっさと行け」

「はい、ありがとうございました。不死川様、今度お礼に甘い物でも食べに行きましょうね」

「何で俺が行かなきゃなんねェんだ」

「不死川様から甘い香りがしたもので」


隣に座ってる間、餡のいい香りがずっと漂っていた。
それを指摘したら自分の隊服の匂いを嗅ぎだした不死川様が可笑しくて笑ってしまう。


「いいから行け!」

「ふふ、はい。それでは失礼します」


柱合会議では少し怖い印象もあったし、苦手ではあったけど今日でかなり不死川様の印象が変わった。



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