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あれから義勇さんは少し出掛けると言ってどこかへ行ってしまった。
見回りには帰ってくるのだろうと思うけど、私は私で一人部屋で膝を抱えている状態。
「待って待って待って待ってどうしよう」
生憎私に性交の事を気軽に聞ける友人は居ない。
しのぶさんや蜜璃さんになんか絶対聞けないし、まず伊黒様に私が消されると思う。
そしてしのぶさんには笑顔で黙殺されると思う。
「どうしよー!!」
宇髄様ならまだ聞きやすいけどあの人面白がって周りに言いふらしそうだから絶対なし。
伊黒様は仮に経験者だとしても何か聞きたくないからなし。
後は…
「あ!須寿音さん!」
須寿音さんならきっと経験豊富だし、この手の相談をしやすいかもしれない。
彼女なら親身に聞いてくれる、そう思って立ち上がり時間を見る。
正午を過ぎた頃だし、義勇さんもさっき出掛ける時昼御飯はいらないと言っていた。
「行ける!」
そうと決まれば急いで行かなくてはいけない。
日輪刀を差し屋敷の戸締まりをして家を飛び出した。
汽車に乗り、吉原について須寿音さんの元へ走る。
私みたいなのが吉原を疾走しているからか、周りの人は驚いて見ていたけどそれどころじゃない。
「すっ、すいません!須寿音さんはいらっしゃいますか!」
「えっ、月陽ちゃん!?」
「あの、えと…須寿音さんのお時間はお幾らでしょうか!」
突然の私の訪問に驚く女性と店主の方にお財布を出しながら詰め寄る。
須寿音さんの貴重なお時間を頂くのだからそれなりにお金だって包むつもりで来ているから、ある程度の金額を言われても大丈夫だ。
「須寿音姐さんは…今、その…」
「ちょっと予約が…」
「30分!30分でいいんです!見回りまでまだ時間もありますし、待ちますから!!」
ずいっと店主さんに詰め寄る私に焦り始める皆さんに申し訳ないとは思うけど、どうしても誰かに聞いてほしいし相談したいんだ。
いや、もし須寿音さんがとても大きなお客さんを抱えていて駄目だと言うならそこの素敵なお姉さんでもいい。
それくらい今の私は切羽詰まっている。
「す、須寿音さんが駄目ならお姉さんでも…お話だけでも聞いていただきたいんです…」
「あれ、月陽?」
全員に目をそらされながらも震える手で素敵なお姉さんの肩へ手を伸ばそうとした時、聞き覚えのある声が聞こえて勢い良く振り向いた。
「須寿音さんっ…と、あれ?義勇さん?」
「あっ!」
「……どうして月陽がここに」
声のした方へ顔を向けたら求めていた須寿音さんが居たけど、その後ろに義勇さんが居る。
私の姿を見て須寿音さんは気まずそうにしていて、義勇さんも驚いて目を僅かに開いている。
あぁ、そうか。
だからお店の方々は。
「………ごめんなさい、騒いでしまって」
「待ちな、月陽!あんた誤解をっ」
「いえ、いいんです。義勇さん、お邪魔してすみません」
「なぜ邪魔だと思う」
男の人がここに居る意味くらい私だって知ってる。
私のせいなんだ、私が悪いんだ。
義勇さんに我慢ばかりさせてしまった私が。
義勇さんも須寿音さんもお店の人たちも誰も悪くない。
「すみません、これ気持ちです。それじゃ…」
私を引き留めようとする皆を無視して店主さんの手にお金を握らせてお店を出た。
出た瞬間義勇さんが追い掛けて来る可能性もあると思ったから全力で吉原を後にする。
心臓がバクバクする。
息が苦しい。
呼吸が整わない。上手く全集中の呼吸が出来ないから疲れが早い。
義勇さんに教わった枝の渡り方も上手くできなくて足を滑らせて柔らかい葉の上へ落ちた。
「…痛い」
どこが痛いのか分からないくらいにどこもかしこも痛い。
ごろりと仰向けに転がって、まだ明るい空を見上げる。
義勇さんだって男の人だから、あぁいう事だってしたいと思う。
きっと何度もそういう経験だってあるんだろう。
私がお相手して来なかったから、須寿音さんの所へお願いしに行ったんだ。
この痛みから逃れるよう目を閉じた瞬間
「何やってんだァ」
聞き覚えのある声が上から降ってきた。
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