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お館様に報告の為に隠へ報告をしていると、救護班の一人が俺の元へ駆け寄ってきた。
「水柱、永恋さんの事なのですが…」
「あぁ」
「とりあえず近くの藤の家へ運ばせて頂きました。主に肋が重傷であり、他には手首の捻挫と所々に浅い裂傷のみです。それと毒を吸っていたようなので解毒剤を飲ませ、今は蛇柱が側についてくれています」
「…そうか。ご苦労だった」
「はっ、失礼致します」
一礼して負傷した隊士の元へ走っていく救護班の背中を見送る。
彼女も自分の役割をこなそうと必死に動いている。
適材適所と言う事なのだろう。
俺達は戦う事に特化してはいるが医療の事となると救護班に知識や技術では劣る。
「月陽」
早く月陽の顔が見たい。
女型の鬼は血鬼術で大量の鬼をこの町へ向かわせていたと伊黒の元で戦っていた隊士に聞いた。
初めに出会した月陽の所の隊士は喉に大きな袋を持って聴覚を攻撃してきたと言っていたし、嗅覚と聴覚の攻撃に特化した鬼だったのだろう。
しかし、月陽程の実力を持つ隊士を攫うとはどんな鬼だったのか。
彼女の事だ、全力で戦うはずなのに女鬼は腰を抜かしていたと言っていた。
「では、以上の事をお館様へお伝え致します」
「あぁ、頼む」
「…あの、水柱」
「何だ」
「永恋さんの事、よろしくお願いします。私、彼女には良くして頂いて…心配なのです」
きびきびと俺からの報告を帳面に綴っていた隠が目を伏せながらぽつりと溢した。
声から女だとは分かっていたが、まさか月陽と仲良くしていた隠まで居ると知って彼女の交友範囲の広さに驚く。
「分かった」
「あ、でも私が心配していたと言う事は言わないでください。余計な気遣いをさせてしまいたくないので…」
「あぁ」
「すみません、お忙しい所引き止めてしまって。それでは失礼致します」
その隠は言いたい事を言ったのか、俺に一礼すると走り去って行った。
俺も仕事か終わったし、そろそろ月陽の元に行くかと藤の家へ向かう。
静かに早歩きで月陽の居る部屋の前へ来ると、障子の奥で伊黒が彼女の背を優しく撫でる影が見えた。
しかし伊黒が下心でそんな事をしていない事は分かっているから、俺の気配を感じて離れた瞬間襖を開ける。
俺の名前を呼んだ月陽の声があまりに弱弱しく駆け寄って抱き締めた。
伊黒が部屋を出ていったのを気配で確認すると、俺の服を掴んだ月陽がぽつりぽつりと本音を溢してくれる。
「生きていてくれて、良かった」
俺も本音を告げた。
月陽を失えば俺はもう俺としていられなくなる可能性だってある。
それくらい失いたくない、失えない存在になっていた。
やっと気持ちが繋がったと思った矢先がこれで少しは不安だが、これだけの怪我をしたのなら暫くは任務に行かせなくて済むという安堵感がある。
強くなりたいと、人々を守りたいと言った月陽にこんな事を言えば嫌われてしまうだろうか。
そう思うと口には出せなかった。
こんなに震えて、恐怖したのに涙さえ流せなくさせた鬼を俺は許さない。
安心したようにやっと眠った月陽を見つめて、もう二度と離れない事を誓った。
「お前の為なら、俺は修羅になる」
例えお前が喜ばなかったとしても、例え嫌われようとも。
月陽が生きていてくれるのならば、それでいい。
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