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それから何日か経ち、ある程度の日常を過ごせる様になってきた私は少しでも義勇さんの手伝いをしようと見回りの間に乾いた服を畳んでいた。

もう夜も深く、縁側から見た空は満点の星空が輝いている。


「…私と同じ呼吸の使い手なのに、型が違うってどういう事なんだろう。珠世さんに聞けば分かるのかな。あれ?猫…」

「珠世さん、ではなく珠世様と呼べ」

「え…?猫が喋った?」


草の影から出てきた猫は私の側に来ると人の言葉を話し出した。
幽霊か何かかと驚いたけど、この声は聞き覚えがある。


「もしかして、愈史郎君?」

「それ以外に誰が居る」

「会いに、来てくれたの?」


そういった瞬間、猫はくるりと1回転して人の姿に形を変えた。
柔らかな髪の毛につり上がった大きな瞳は間違いなく珠世さんが大好きな愈史郎君だった。


「お前が大きな怪我をしたと聞いた珠世様に言われて仕方なく来てやったんだ。珠世様の優しさに心から感謝しろ」

「会いたかったよ、愈史郎君!」

「わっ、ばっ馬鹿!急に抱き着くな!」

「身体が痛い…だから現実だ!嬉しい、凄く嬉しい」

「…全く、相変わらず世話の掛かる奴だな」


愈史郎君に抱き着けば、ある程度良くなったものの衝撃があると痛む身体に今が現実である事を実感する。
そんな私を頬を染めながら頭を撫でてくれる愈史郎君がとても懐かしい。

鬼殺隊に入ってからは全く会っていなかったし、手紙すら届ける事が出来ていなかった。


「たくさん話したい事はあるんだけど、とりあえず珠世さんに私は大丈夫ですって伝えてもらえるかな?」

「あぁ、相変わらず手も掛かったと伝えておこう」

「ふふ、相変わらずだね」


変わらない愈史郎君に安心してしまう。
珠世さんも、愈史郎君も鬼舞辻から目をつけられているからいつも心配だった。

知らない間に彼等に会えなくなる可能性だってあるから。


「…月陽、お前何と出会した」

「え?」

「この腕の跡から嫌な気配がする」


ちょっとだけ意地悪な顔をしていた愈史郎君の顔が急に真剣になったと思ったら、黒死牟に捻り上げられた方の腕を強く掴まれた。
折れてはいなかったから、大した痛みはなかったけど少しだけ顔を歪めたら直ぐに離して謝られる。


「だ、大丈夫!」

「…後で珠世様にいい薬はあるか聞いといてやる」

「うん、ありがとう」

「それで、何があった」

「…私と同じ呼吸を使う鬼に会ったの」


何だかんだと優しくしてくれる愈史郎君に変わらないなと思うと同時に、彼の優しさが痛いほど伝わる。
そして再び問われた質問にしっかりと答えた。
私も丁度珠世さんに聞きたいことがあったから、こちらとしても切り出してもらえて有り難い。


「月の呼吸を使う鬼、か」

「うん。でもね、聞いた話では型が全く違うみたいなの。鬼の名前は黒死牟、6つの瞳を持った鬼だったよ」

「珠世様なら何か知っているかもしれん。しかしどうしてお前がそんな鬼に目をつけられる」

「分からない。もしかしたら何処かで見られていたのかもしれない」

「…珠世様の元へ帰れ。今お前は鬼殺隊の柱と共に行動しているんだろう。それなのに守れないのならばこれ以上そいつらに任せておけない」

「ありがとう、愈史郎君。でも私、守られる為にここにいる訳じゃないから会いに帰ることはしても隊を抜ける事は出来ない」

「それはお前の恋人がここに居るからか」

「えっ、そんな事まで知ってるんだ!」

「噂なんてすぐ分かる」

「血鬼術使ったでしょ」


愈史郎君の血鬼術は援護型で、目を配り色々な物を見聞きする事ができると言っていた。
ここに来れた時点である程度は調査済みだったのかも知れない。


「とりあえず、黒死牟とやらの事は珠世様に聞いてやる。お前は昔からたいした強さも無いのに無茶をする所があるから、それを直せ。珠世様に気苦労をかけるな」

「はーい!」

「………る」

「え?」

「お前を、非常に手の掛かる妹の様には思ってやってるから!こんな怪我、出来る限りするな!次、もしも次大怪我したら問答無用で連れ帰るからな」

「…うん、ありがとう。ごめんね、心配掛けて」


半ば叫ぶようにして私の心配をしてくれた愈史郎君の頭を撫でた。
私が小さい頃から何かと面倒を見てくれた愈史郎君がそう思ってくれていた事も分かってはいたけど、こうして言葉にしてくれる事は少なかったなと思う。

私が鬼じゃないから、最初は恐る恐る触られた事も覚えてる。


「…なら俺は帰る。何か分かったら使いを寄越すからそれに返事を書け」

「分かった」

「……死ぬなよ、月陽」

「うん。愈史郎君も、珠世さんもね」

「当たり前だ」


そう言ってまたねも言わない内に愈史郎君は消えた。
心配を掛けてしまったのは申し訳ないと思いつつも、こうして会いに来てくれたのは嬉しかった。




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