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あの後少しだけ眠った私の隣にはずっと義勇さんがついていてくれたみたいだった。


「おはよう」

「義勇さん、おはようございます」

「胡蝶から送られてきた薬だ。起きられるか」

「はい」


ずきずきと肋が痛むけど、しのぶさんが調合してくれた薬があるのなら飲まなくてはいけない。
それに、あの任務の時に起きた事を説明しなきゃいけない。

水を口に含み、苦い薬を一気に飲み干す。


「う…苦い」

「耐えろ」

「はい」


思わず渋い顔になるけど、何とか下の上に残った薬も飲み干し一息つく。
眠る前はあんなに取り乱してしまったというのに、今はとても落ち着いている。


「義勇さん、伊黒様は…」

「もう話せるのか」

「はい」


心配そうに見つめる義勇さんに笑みを返しながら頷く。
義勇さんが居ない時に伊黒様にも気を使わせてしまったから、早く謝りたいのもあるし。


「伊黒、大丈夫だそうだ」

「そうか。ならば聞こう」


義勇さんが扉に向かってそう言えば伊黒様が襖を開けてすぐに入ってきた。
何となく誰かの気配がするなと思っていたけど、外で待っていてくれたなんて申し訳ない。


「伊黒様、すみません…」

「謝罪する暇があるなら昨夜の事をさっさと話せ」

「はい。私は隊士達を撤退させた後、下弦の伍と対峙してました。えと、因みにその鬼は…」

「冨岡が任せると言って走っていったので俺が代わりに斬ってやった。耳障りな声に嫌な臭いのする鬼だったな」


少しだけ義勇さんを睨んでいる伊黒様に苦笑いを浮かべる。
きっと有無を言わさずに私を追ってくれたのだろうけど、嬉しい反面伊黒様に申し訳ない。


「そうでしたか…」

「この貸しは高いぞ。お前が重症で甘露寺が心配しているだろう。元気になったら甘露寺と飯に行き安心させろ」

「はい」

「それで、何に連れ去られた」


伊黒様の優しさとぶれない蜜璃さん愛に頷くと、続きを諭すように少しばかり目の鋭い義勇さんが口を開いた。
私は表情を引き締め、黒死牟と呼ばれた鬼とのやり取りを伝える。


「黒死牟と呼ばれた鬼は上弦の壱でした。六つの目を持ち、そして…私と同じ月の呼吸を使うと言っていました」

「鬼がお前と同じ呼吸を?どういう事だ。血鬼術ではないというのか」

「その鬼は腰に刀を差していました。私の体を見て親族ではないと、なのに何故自分と同じ呼吸を使うのかと問われました」


黒死牟に掴まれた腕を服の上から擦り、あの時のことを思い出しながら話す。
ぞっとするようなあの瞳にまた手が震えそうになるのをグッとこらえる。


「私では、全く歯が立たないと本能で分かりました。それ程にあの鬼は禍々しく、そして理性的です。私の型を見ても、腕を何とか斬り落としても全く動じなかった…」

「上弦の壱…月の呼吸…元々の鬼殺隊という事か?」

「分かりません。私が不甲斐ないばかりに、情報を引き出す事も出来ませんでした」


申し訳ありません、と頭を下げる。
悔しい、震えるばかりで何も出来なかった。

そんな私の頭を義勇さんが無言で撫でてくれる。


「生きて戻った、今はそれだけで十分だ」

「…そういう事だ。十二鬼月について知らない事ばかりなのはお前だけではない。お前が上弦の壱と出会し、少しでも情報を持って生きて帰った事は今の俺達にとって十分に価値がある」

「……ありがとう、ございます」

「また何か思い出した事があるなら冨岡にでも話せ。俺はこれからお館様に直接報告に行く」

「頼んだ」


伊黒様は静かに立ち上がると、長い袖で私の頭をぽんと撫でた。
義勇さんがむっとした表情で伊黒様を見上げているも、そんな事気にする様子も無く私を見下ろす。


「今は療養しろ。お前がこうでは冨岡も使い物にならんし、何より甘露寺の為の毒見役が居なくなるのは俺も困るのでな」

「はい、ありがとうございます」

「…月陽は毒見役じゃない」

「ふん。しかしこの女は喜んで飛び付いてくるぞ。まるで餌を前にした犬のようにな。自分の女くらいしっかり躾けておけ」

「はっ!」


義勇さんに鼻で笑った伊黒様はするりと襖から出て行った。
どうして私と義勇さんが恋仲になった事を知っていたんだろうと問い質したくても既に伊黒様の気配は無い。

結局私も私で人前でも義勇さんと名前を呼んでしまっているし、仕方ないのかも知れない。
バレてまずいという事はないし、伊黒様がいたずらに言いふらす事もないだろうと心を落ち着かせる。


「…飛び付いたのか」

「え?」

「飛び付くのは、俺だけにしてくれ」


ちょっとだけ拗ねたように言った義勇さんに優しく抱きしめられる。
私はまだ死なない、死ねない。
死にたくない。

少しだけ土の匂いがする義勇さんの香りを吸い込み、息を吐く。

私はこの人のそばを、離れたくない。



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