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目を覚ますと、私は布団の上に寝かされていた。
「…こ、こは」
「起きたか」
「義勇、さん…?」
「滝壺に落ちて頭でもおかしくなったか。俺の何処が冨岡に見える」
目が覚めて一番に顔を見たのは伊黒様だった。
どうして義勇さんは居ないのだろう、とぼんやりする頭で考えながら体を起こそうとした瞬間痛みで顔が歪む。
そうだ、確か腹を殴られた時に肋も何本か折れていた気がする。
それに気付いてくれた伊黒様がネチネチと文句を言いながら私の背中を支えてくれた。
「自分の状況が理解出来ていないのか。もう少し考えて行動をしろとあれ程」
「義勇さんは…?それに、隊士はどうなりましたか?」
「…隊士は耳をやられてはいるが、命に別状はない。冨岡は頭を冷やしに行かせている」
怒られる可能性がある事も気にせず、私の体を支えてくれる伊黒様の体にしがみついた。
その反動で体に激痛が走ったけどそんな事は気にしていられない。
縋りつくようにしがみついた私にため息をつきながら伊黒様は手を優しく握り返してくれた。
「今回の任務でお前が一番重症だ。頭の方は冨岡もいい勝負だろうがな」
「それなら、良かった」
「良かったも糞もあるか、この愚図。落ちるお前を隠が見つけていなかったら貴様等とうに死んでいたんだぞ」
「…はい」
言葉はキツいのに、行動が優しすぎて甘えるように手の震えが更に増してしまう。
黒死牟と会ったことを報告しなくてはいけないのに、あの風貌と鬼にされそうだった事を思い出すと呼吸が浅くなり息の仕方を忘れる。
「…安心しろ、直に冨岡が戻る。報告は落ち着いてからでいい。ゆっくり息を吐き吸え。ゆっくりだ」
「は…っ、」
「良く生きて戻った」
握っていた手を解き抱きしめられると、あやす様に背中をゆっくり叩いてくれる伊黒様に合わせて息をしていくと楽になった。
ふと伊黒様の身体が離れると、部屋の襖が勢い良く開けられる。
「…月陽!」
「義勇さん…」
「すまない、守ってやれなくて」
顔を苦痛に歪めた義勇さんに強く抱き締められて、私は腕の中でゆっくり首を振る。
ちらりと伊黒様を見たら静かに部屋を出ていく所が見えた。
私が見ていた事に気がついたのか困った様に眉を下げた伊黒様は襖を締めて、義勇さんと私しか居ない空間にしてくれた。
「ぎゆうさん、義勇さん…怖、かった」
「大丈夫だ。もう二度と離れたりしない」
「うん…」
「生きていてくれて、良かった」
気付くと義勇さんの身体もほんの僅かに震えていた。
痛む肋に耐えながら身体をゆっくり離して触れるだけの口づけをする。
「ごめんなさい、義勇さん。心配掛けてしまって」
「…いい。帰ってきたならそれで、いい」
「もう少しだけ、もう少しだけでいいので義勇さんに甘えさせてください。そうしたら、きちんと何があったか話しますので」
どこもかしこも痛い。
こんなに満身創痍になったのは、鬼殺隊に入って初めてかもしれない。
それでも私は今、間違いなく生きている。
義勇さんの腕の中で、息をしている。それだけで震えていたはずの身体は落ち着き、心から安心したせいかまた少し眠気がやってきてしまう。
「今は休め」
髪を優しく撫でられ、私は瞼を閉じる。
義勇さんに離れてほしくなくて出来る限りの力で羽織の袖を握りながら意識を手放した。
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